第8話 最凶世代

 入学から3日目の昼休み。


 ギルは廊下に出て、一番端に位置するJ組から一直線に続く長い先の突き当りまでをぼーっと眺めていた。



「ギルよォ。オメーってマジでレイアガーデンのトップ狙ってんのか?」


 ギルの隣にはブルートの姿。

 もうずっと付きまとわれている。


 ちなみにブルートの外見的特徴(おさらい)、入学ランキング、そしてざっくりとしたステータスは以下である。


 身長は2mくらいのオーク族。ただ、やたらと豚っ鼻が強調されている。

 頭はテッカテカの黒髪リーゼント。

 赤いシャツの上には極短ラン、極太のボンタンにほっそいベルトをしている。


 外履きは魔王のような先が尖った靴を履き、上履きはわざわざ履き替えて白い紐なしのスニーカー(スリッポン)の踵を潰して履いている(レイアガーデンは校内で靴を履き替えなくてもいい決まりである)。



入学ランキング199位/400人


〈東の国の世紀末最終兵器リーサルウェポン(もちろん自称)〉こと、ブルート・ターディグレイド



 実は、ブルートは一般入試を通過してきた学力での入学組だったのである。ヤンキーなのに勉強はできると言う、インテリヤンキー? なのかもしれない。


 そのため、戦闘力は低い割に学力で総合点を稼いで、そこそこの順位にいたようだ。


 ちなみに全身包帯でグルグルのままだと面白すぎるとギルたちに散々言われたので、ブルートは保健室で回復魔法で治癒してもらってきていた。

 なので、現在はいつも通りの姿(ブタのヤンキー)になっている。


 では続き。



「ん? あぁ、この学校って首席で卒業すると奇跡の加護が受けられるらしいじゃん。……俺にはどうしても叶えたい願いってのがあってさ」


「まぁそうだよなぁ。オレもヨ、奇跡の加護で叶えたい願いがあってヨ。だからわざわざ、東の国から越境してまでレイアガーデンに乗り込んできたって言うのに」


 ブルートも希望を持ってレイアガーデンに入学したはずなのだが、この修羅の国とも言えるレイアガーデンにあってはあまりにも体力と発想が貧弱過ぎたようである。



「ブルート」


「何だヨ?」


「お前って、もしかして本気でレイアガーデンにトップ取るつもりで入ってきたの?」


「たりめーじゃねーか」


 ブルートはカッコつけて白い歯を見せながら親指を突き立ててみせた。



「だから、いちいちクソダセーんだよな。やっぱりお前と一緒にいるの恥ずかしいわ」


「なんでだヨ!」


 ギルはだんだん話すのが面倒になってきた。

 ギルの肩に乗って話を聞いていたクロベエが、仕方がないと言った風に口を出す。



「ブルートぉ。キミ、ここのトップ取るつもりで入ってきたって言うのなら、もしかして入学前から名の知れた新入生のデータとか集めたりしてるんじゃない?」


「おい黒猫! つかオメー、何で知ってんだヨ?」


「いや何となく。キミみたいな変にこじらせたタイプって、誰がどんな経歴でどんな噂があるとか、誰があの辺で頭張ってたとか、そういうことにいかにも興味持ちそうじゃない」


 クロベエは一般のヒューマンと比べても圧倒的に高い知力を持っていた。

 隠密行動のスペシャリストで、人を見抜く術には長けている。



「まぁヨ。下調べはバッチリだゼ。どうしても知りたいってんなら教えてやらなくもねーけど」


 顔を見ればわかる。

 言いたくて仕方ないようだ。



「わかったわかった。んじゃお前の情報ってのをぜひ教えてくれよ」


 ギルが言うと、ブルートは満面の笑みを浮かべた。



「しょーがねぇな、コイツだきゃーヨ。俺がいないと何にもできねーんだからナ」


 この日一番の笑顔で高笑うブルート。



「……キモ。コイツぶん殴っていいかな?」


「ダメだよギル! 一方的な暴力はバレたら褒章エンブレムをはく奪されちゃうって」


「……たぶんそのうち反射的に殴りそうな気がするけど、一応我慢するわ」


 小声で話すギルとクロベエを横目に、ブルートが声を上げた。



「お! 早速出てきやがった。見えるか? E組から出てきためちゃデケーやつ。あのスキンヘッドにトライバルのタトゥーをゴリゴリに入れてる見た目からしてヤベーの」


「ん? あぁいるな。ありゃ確かに目立つ」


「アイツは確か……ランキングこそ上位じゃねぇが、それは学術と剣術が足を引っ張ってるからだ。噂じゃ体術ベースの戦闘力はかなりのモンらしい。封鎖都市ギランレーでは知らぬものはいない武闘派集団〈モンスター・ファクトリー〉の頭がアイツだぜ。名前は確か……バロテス・バケドバス。通称バロバス」


 ブルートが差す方向には炎柄ファイヤーパターンのジャンパーを羽織った、いかつい男の姿。身長も2m以上ありそうだが、何といっても存在感を感じさせるのはその横幅だ。


 腹は出ているものの、丸太のような腕。

 発達した僧帽筋によって首も幹のように太い。体重も200kg以上は軽くありそうだ。



「俺のマル秘メモだと、危険度はAランク。ギル、オメーがここのトップを取るためには避けては通れない一人だと思うぜ……」


「そうなんか? 別に大したことなさそうだけど」


「オメーのその自信はどっから来るんだヨッ」


 それからもブルートは鼻息荒く、オリジナルのマル秘メモに書かれた要注意人物を挙げていった。


・B組の竜人族ドラゴニュート

・C組のバトルプリースト

・D組の元奴隷

・E組の武闘派集団の頭

・F組の風の薬士、ロプトドア公国の姫

・H組の戦火の凶姫ヴァルキリープリンセス


 一通り聞くと、ギルはブルートに尋ねる。



「なぁ、ウチのクラスにはいねーの?」


「ん? J組か? あー、いるにはいるんだけどヨ」


「何だよ?」


「いや、それがよくわかんねーのヨ。なんか、女でヤベーのがいるって噂で聞いたけど」


「ふ~ん、女なのかぁ。でも、まだ全然クラスの連中とも話せてないから今は情報が足りねぇな」


「だな。また何かわかったらオメーにも教えてやっからヨ」



 ブルートは非常に協力的である。

 何を企んでいるのかは分からないが、現にこうやってつきまとわれているのだから、今は素直にその情報収集力に期待する方が良さそうだ。


 クロベエと顔を見合わせて今後の方針を目配せで確認していると、ブルートが突然何かを思いついたように口を開く。



「あ、そう言えば」


「どうした?」


「オメー知ってんか? 今年のウチらの学年が何て呼ばれてるか?」


「いや、知らねーけど」


「だと思ったゼ。いいか、今年のウチらはレイアガーデン始まって以来の〈最凶世代〉って言われているらしい」


「最凶世代? なんだそりゃ」


「そりゃオメー、この世代の世界中の危ねぇ連中がこの学校に集結してきたからそう言われてんだろーヨ。大体、さっき名前を挙げたところだって氷山の一角だぜ。噂じゃ、今年から受け入れ方針を変更したとかで、どれだけ素行に問題があるヤツでも戦闘力や一芸にさえ秀でていれば入学させちまってるらしいな」


「だからこんなに入学者が多いのか。入学式で学園長も言ってたけど一学年400人って上限いっぱいだよな?」


「そうだ。それに……」


「なんだよ、まだ何かあんのか?」


「あぁ……実は全世界的に見てもトップクラスの実力を持ってるってヤツが入学してきているらしい。しかも二人で、そのうち一人は東の国から来てるって噂で聞いたゼ」


「は? マジかよ」



 見ると、廊下は数多くの生徒で溢れ返っていた。

 無邪気にはしゃぐ生徒の喧騒に包まれている。


 この景色の中にそんな化け物じみたヤツがいるのか。

 ギルは思わず肩を震わせた。



「んだオメー? ビビってんのか?」


「あぁ……そうかもしれねぇ。でも、武者震いだと思いてぇけどな」


「だといいけどヨ」


 ブルートがふと見ると、ギルは目を見開いて口元に笑みを浮かべていた。いや、内面から喜びと興奮が溢れ出した、そんな表情であった。



 「って、ビビったり笑ったり、情緒不安定か」

 

 そう言ってブルートも笑ったが、ギルの笑顔の本当の理由を知る由はなかった。




>>次回は「銀髪野生児と金髪姫」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


ブルートは実は勉強ができるらしいよ。

あと、すでに出てきた東の国で知り合ったノブオとシンペーは彼の舎弟のようだね。


ただし、見た目とハッタリで舎弟にしたので、実際に喧嘩をしたら普通にブルートが負けるという噂もあったりなかったり。


新入生で中等部時代に名が知れていた連中はブルートのマル秘メモにも書かれているけど、どうやらまだ見ぬ強豪もゴロゴロいるらしいね。


もっとも、新入生ランキングは成績も含めたトータルでの順位なので、戦闘力とは別のランキングってところがまたややこしんだよね。


――――――――――――

★作者(月本)の心の叫び


各クラスの実力者の情報が少しずつ出てきましたね。

学園バトルものっぽく、ギルたちにはどんどんデュエルを繰り広げて行ってもらいたいところですが、まだ入学3日目と言うこともあり、動きはあまりないようで(^^;


ちなみに次回の話ですが、序盤では個人的にお気に入りのエピソードの一つだったりするので、よければぜひご覧ください(*^-^*)

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