第41話 幼き日の誓い

術式解除マジックキャンセル


 ミーナが精霊術を魔法で解除。

 ギルたちはようやく身体の自由を取り戻していた。



「凄いな姫様は。初見の精霊術をこうもあっさり解除するとは」


 ロビンが感心した様子で立ち上がり、ドクロの杖を手にした。



「み、ミナちゃんは、昔から……何でも、できた、からな……」


 顔は酷く腫れあがり、口を開くのがやっとの状態のギルが立ち上がろうとすると、ミーナは肩に手を置き再びベランダの床へと座らせた。



「そんなボロボロの状態じゃ回復の詠唱もまともにできないでしょ。待ってて、すぐに回復するから」


 そして、今度はギルに回復魔法を施す。

 みるみる傷が塞がり、腫れが引いていく。

 折れた歯も再生されていた。



「すげぇ回復力、やっぱアネさんはレベルが違ぇわ」

「さすがに近隣にその名を響かせるだけはあるな」


 ブルートもロビンも感心しきりと言った様子だったが、回復したはずのギルの表情は浮かないものだった。



「……その、色々ゴメンな」


「いいってこれくらい」


「そうじゃなくて、せっかくもらったプレゼントが」


 ギルはベランダから教室に入ると、床に転がる酷く歪んだ指輪を手に取った。


 そして、ミーナの方へ振り向くと無念の表情を滲ませる。



「これ……守れなかった。俺なんかのためにミナちゃんがわざわざプレゼントしてくれたのに」


 ギルの手のひらで、ミーナが苦労して手に入れた真っ白な指輪がぐにゃりと潰れ、折れ曲がっている。



「あ……。そ、そっかぁ。うん、大丈夫大丈夫。別にそれくらい全然平気だって! だってほら、アタシってばなんたって上流貴族だし。これくらいまたいつでも買ってこれるから――」


 そう言ってミーナは無理やり笑顔を作った。

 瞬きもせず、大きな瞳からポロポロと涙を流しながら――



 ミーナにこんな顔をさせてしまった。


 子供の頃、賊に襲われたあの日。

 あの時、心の底から守りたいって思った人に、またこんな悲しい思いをさせてしまった。


 俺はそのために強くなるって、あの時誓ったはずだったのに。



「……俺はこれで十分だよ。いや、これがいい。だってさ、ミナちゃんが俺のためにわざわざ選んでくれたんだろ?」


「う、うん。でも……こんなになってたら指にはめられないし、効力だってもしかしたら――」


「いいんだ。でも、もう少しだけコイツはミナちゃんが預かっててくんない?」


 ギルはミーナの手を取ると、手のひらの上に歪んだ指輪をそっと置いて、自らのマメだらけのゴツゴツした手で包み込む。



「え? あぁうん。でも何で?」


「――先にやらなきゃいけないことができたんだよ」


 言うなり、ギルはミーナに背を向けると、J組の教室ドアを……進むべき道を見つめる。



(すまねぇな、クロベエ。どうやらお前との約束は守れそうもねぇや)


 心の中でクロベエに詫びると、ギルは拙速気味にドアに向かって歩き出した。



「ちょっ、ギルくん! どこに行くつもり!?」


 ミーナがギルの後を追おうとする。

 が、後ろからロビンに肩を掴まれた。



「行かせてやれ、姫様。おそらく止めても無駄だろう」


「行くって……どこへ?」


「リューヤのところで間違いあるまい」


「リューヤ!? じゃあ、ギルくんをあんな目に遭わせたのは……」


「そうだ。だから行かせてやれ。でも――」


「でも?」


「我らも応援はしにこうぞ」


「あぁ、そうこなくっちゃ!」


 ミーナとロビンが短いやり取りの中で共鳴し合う。


 二人が同時にギルへ目を向けると、教室のドアの前で進路を妨害せんとする数人のJ組生徒に絡まれている場面。



「なんだよアイツら。ギルくんの邪魔しやがって!」


「まぁ見ていろ。イベントにザコ敵はつきものだ」


 二人とブルート以外、教室中のほぼ全員。

 J組生徒たちの悪意に満ちた目がギルに向けられていた。


 彼らのほとんどはギルに対して悪感情を抱いていたのだ。

 いずれことは必然だった。


 すると、生徒の一人がギルの肩に馴れ馴れしい態度で手を回してきた。

 そしてグイと自分の方にギルを力任せに引き寄せると、顔を近づけ、高圧的な言葉をかけてくる。



「おい、なぁ、ギルガメスぅ。お前、さっきあんだけ無様にリューヤにボコされて、まだ歯向かおうっての? やめとけやめとけ。お前みてーなザコが勝てる相手なワケがねーだろ、バーカ」


「……どけ」


「はぁ? なにぐがぁッ!!?!」


 ギルが絡んできた生徒の顔面を右手でがっちりと鷲掴む。

 そのまま有無を言わせぬうちに、後頭部から机に思いきり叩きつけた。



「ぶごはぁッ!!?!」

「「「キャーーーーーーーーッ!!!」」」


 机はバキバキに真っ二つ。生徒は血まみれで即失神。

 J組教室内は一瞬のうちにギルに対するヘイトのるつぼと化した。


 だが――



「邪魔だっつってんだろうが。テメーらもこうなりてぇのか?」


 ギルがドアを塞ぐ数人の生徒たちににじり寄ると、彼らはその言い知れぬ迫力に自然と後ずさりし、思わず進路を開けるのだった。


 ギルはその間を悠然と通り過ぎていく。

 その真っ赤な双眸は……見たことがないほどの激しい怒りを孕んでいたのだった。



>>次回は「鬼の行進」と言うお話です!

――――――――――――

★作者(月本)の心の叫び


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