第42話 鬼の行進
ギルに対するブーイングが教室内から鳴り止まない。
しかし、そんなことはお構いなしに廊下に出ると、ギルはひとかけらのためらいも見せずにB組に向かって鬼の形相で歩いていく。
「なんだぁ? J組の呪われてる野郎じゃねぇか。どこに行こぼべがッ」
進路を妨害する生徒にいきなりアッパーカットをカマすと、生徒は吹っ飛ばされた勢いで、ガスッと天井に頭から突き刺さった。
「調子ぶっコイてんじゃねぐふぅッ!!? ちょ、ま、ぎゃああああッ!!!」
続けざまに絡んできた生徒には、どてっ腹に前蹴りを突き刺す。
そして、涎を垂らして前のめりに倒れてきたところを髪の毛を掴んで振り回し、廊下のガラス窓に勢いのまま叩きつけてぶち破り、外へと投げ捨てた。
廊下にはガラスの破片が飛び散り、外に放り出された生徒は4階から落下し地面に叩きつけられると、白目を剥いて手足がおかしな方向へ折れていた。
「うわああああああぁッ! やり過ぎだアアアアッ!!」
「コイツ、マジでイカれてやがんぞおおおッ!!」
進行を妨害しようと画策していた生徒たちがその鬼気迫る姿を前に、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
一方で、騒ぎを聞きつけた生徒たちは廊下に飛び出すと、すぐにギルの後を追いかける。その後ろにはミーナたちを含めた集団ができていた。
そして、とうとうB組の教室前までやってきたギル。
だが――
「あなた、さっきあれだけやられたって言うのに、もしかして仕返しにきたんですか?」
「ウケるぅ! あーし、ザコ狩り超トクイー!」
前に立ち塞がったのは、B組のスケイプとモエ。
さっきまでJ組を訪れていたリューヤの取り巻き。
「失せろ。邪魔だってんだよ」
「はぁ? どく訳がないでしょう。まったく学習能力のない人ですね。私がまた同じ目に遭わせてあげますよ」
スケイプが手をかざし、精霊術を発動するその瞬間。
ギルは目の前から姿が消えたかと思うほどの高速移動で、瞬時にその隣に回り込むと、スケイプのかざした左手の親指以外の四本を握り込んでいた。
「なっ!?」
「元はと言えば、テメーのクソみたいな術にかかっちまったのが原因だったな。あー! ムカつくぜえええぇッ!!」
「ぎぃぃぃやあああああああッッ!!!?!!」
【バキバキバキ】という音と共に、ギルはスケイプの指四本を握力で一気に粉々に砕く。見ると、四本の指全てがあらぬ方向にねじ曲がっていた。
しかしまだ終わらない。
スケイプは痛みと恐怖でずるずると膝から崩れ落ちると、そのまま廊下にへたり込んでしまう。
だが、そこはちょうどいい高さだった。
スケイプが気づいた時には、ギルが足を大きく振りかぶっていた。
そのまま顔面をサッカーボールのように蹴り抜くと、その勢いで壁に激突。
スケイプは口から泡を吹いて失禁していた。
「ざぁこ。よそ見してんじゃないわよ」
次の瞬間。
勝利を確信したかのようなモエの声がギルの耳を撫でる。
ダガーナイフがギルの目の角膜、数ミリのところまで迫っていたのだ。
だが、そこからギルは冷静にスウェーバックで攻撃を交わすと、ナイフを持つ手首を掴んで、そのまま裏に捻り上げて関節を決める。
手からダガーナイフがカツンと床に落ちる。
すると、モエは濃いメイクが施された額に脂汗を滲ませながら、薄笑いを浮かべた。
「あ、あれぇ。って、これは違うしぃ。あーしはあのトカゲに脅されてただけで、別にあーたをどうこうしようなんて――」
はぁ、と溜息をつき、聞くだけ無駄と判断。
ギルはそのまま手首を裏に一気に捻りあげ、モエの手首、肘、肩の骨をまとめて破壊。
「ぎいいいってえええええ!!」と、絶叫をあげるモエの頭を首相撲で抱え込むと、顔面に膝蹴りを一発叩き込んだ。
「ぐふぅ」と漏らし、鼻から血をだらりと流しながらフラフラとよろめくモエ。
ギルは助走の距離を取ると、モエに向かって「ウゼんだよ、クソブスがあああぁッ」と雄たけびをあげて豪快にドロップキック。
胸にモロに直撃すると、モエはそのまま勢い余って【ドガシャーン】という破壊音を伴いながらB組のドアを背中から激しくぶち破った。
モエが吹っ飛んだ先。
そこにはカードで
ようやく標的の前にたどり着く。
ギルは怒りの先にある感情に触れながら、半分イった目で、椅子に足を組んで座るリューヤを見下ろしていた。
「おぅ、クソトカゲ。早速イジメに来てやったぜ」
「へぇ……誰に上等コイてっかわかってんのか、クソゴミ?」
その足元には白目を剥いてビクビクと痙攣しているモエ。
ただ、二人はそこには目もくれず、激しく視線をぶつけあったまま。
「俺が来た理由、わかってンよな?
「くくッ、さっきあんだけイジメられておいて、そんだけデカい口が利けるって。テメーのメンタル、バグってんのか?」
「バグってんのはテメーだろ。イカれたクソサドが」
互いに一歩も引く様子がない。
二人の光景を目の当たりにして息を呑む周囲の生徒たち。
その時、カードをイジっていたリューヤが、一枚のカードをシュッとギルに飛ばした。
ギルは顔に向かってくるカードを指二本で挟む。
「デュエルか。もちろんいいぜぇ。何たって今日のオレのバトル運は最高だからよ」
言いながらリューヤはギルの手に持つカードを指差した。
「スペードの……エース?」
「
その言葉を受けて、ニッと口角を上げるギル。
リューヤもつられて不敵に笑う。
立ち上がったリューヤはギルに向かって顎をしゃくった。
ギルは小さく頷くと、リューヤの後についていく。
二人はそれから一切の言葉を交わすことなく、校舎の外へと歩を進めていくのだった。
>>次回は「観客」と言うお話です!
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