第43話 観客

 大聖堂。


 王城の名残がまだ色濃く残るその場所は、レイアガーデンでは主に全校集会など、大規模なイベント行事に使用される。


 使用用途が変わったため改装されてはいるが、壁一面に広がるアーチ型のステンドグラス、会場の端には天井へ着き抜ける石柱。

 そして、尖塔にはいまだ大きな鐘も存在していた。


 まさに大聖堂と呼ぶにふさわしい広々とした敷地。

 一般的な体育館と比較して、メイン会場となる中央部だけでも5倍以上の広さがあった。



 その中央で二人の男が向かい合っていた。

 B組のリュー・ヤーネフェルト・ゼルレギオスとJ組のギルガメス・オルティア。


 そして、さらには大聖堂の中にはB組の大半の生徒とギルの関係者の姿もあった。


 J組から追いかけてきたミーナ、ロビン、ブルート。

 廊下の騒ぎを聞きつけた翠、ジュナ、ラヴィアン。

 文字通りの門番となり、入口に立ち塞がって関係者以外の侵入を阻んだバロバス。


 そう、侵入を阻めたのは〈ほぼ〉だった。


 バロバスの活躍により、関係者だけが入場を許されたかに思えたが、実はギルにもリューヤにも関係のない数名の生徒が大聖堂の中に点在していることは、中にいるほどんどの生徒は気づいていなかった。



「あっちの青い髪の竜人族ドラゴニュートが最近悪さをしていたイケナイ子かぁ。あ~、能力ちからはあるけど、性格が邪魔して活かしきれてないタイプみたいだねぇ。


 で、もう一人はウチのクラスのとびっきりの被呪者の子。あの子は色々すっごいいびつ。持っている属性もおかしいし。大体、なんて、世の摂理に完全に反しちゃってるしなぁ、もぐもぐ」


 何食わぬ顔でステージの緞帳どんちょうの隙間から、このデュエルの様子をお菓子を食べながら観戦している着ぐるみをかぶった謎の人物。


 さらに他クラスに1人は存在するナンバーズランキングトップ10たちの何人かもこの場のどこかで戦いが始まるのを待っていた。



 そして堂々と観戦するのはB組生徒とギルの仲間たち。

 二つの集団は、ギル側とリューヤ側に分かれるように陣取っている。



「いやいや、何の騒ぎかと思って来てみれば、ギルのデュエルとはな。きゃつがどれだけ成長したか楽しみじゃのう」


 隣の狐獣人ルナールのはしゃぐような声がミーナの耳に入る。



「ちょっとアンタ、楽しみって何なのよ!? これは遊びじゃないのよ!」


 ミーナが思わず声を荒げると、狐獣人は「はて?」と不思議そうな表情を浮かべた。



「何って、友の成長を間近で見られる機会などそうそうあるものではあるまいよ。と言うか、おヌシは一体何に腹を立てておるのじゃ?」


「はぁ!? そりゃ腹も立てるでしょうよ! ギルくんに何かあったらって心配にならないの?」


「翠はいつでもギルさまが心配でございます!」


 ミーナがジュナに向かって声を荒げるその下からか細い声が聞こえてくる。


 視線を下げるとそこにはメイド服を着た子供が不安げな表情でこちらを見つめていた。



「キミは、えっと……」


「ワタクシは翠と申します。ギルさまの世界一の熱烈な信者ファンをさせていただいておる者でございます」


「ギルくんの世界一の……ファン?」


 てか、ギルくんの交友関係って一体どうなってるの?

 この派手な露出の多い獣人といい、メイド姿の子供といい、何だか目立つ人ばかり、それに――


 もう一人、以前見かけたことがある小柄なエルフが狐獣人の向こうにいる。

 つなぎの上に白衣を羽織ったその姿は医者かあるいは――


 ミーナが周囲の状況を窺っているうちに、刺青超獣の通り名で知られたバロバスがギルとリューヤの間に審判レフェリーのように立っていた。


 どうやらこれからデュエルのルールを決めるようだ。



「バロバスか。確かにテメーが立ち合いには最もふさわしいかもな。オレとコイツの両方にやられてんだからよ」


「……」


 元々口数の少ないバロバスだったが、やはりリューヤのことは苦手なのだろうか、目線を合わせようとはしない。



「バロバスぅ、お前はいちいちこんな性悪トカゲの言うことなんて気にしなくていいんだって。それより早くルールを決めようぜ」


「あぁ、そうだな。まずは勝利報酬。お互い希望を言え」


 相変わらず朴訥としたバロバスの言葉に先に反応したのはリューヤだった。



「クク、勝利報酬ねぇ。別に何でもいいんだけどよ、できりゃあテメーが精神的に一番堪えることを報酬にしてやりてぇな」


「俺が精神的に堪えること? はっ、テメーにだけはぜってぇ負けねぇし、何だって構わねぇけどな」


 二人の視線は相変わらず激しく交錯し、火花を散らしていた。


 リューヤはそこからフッと視線を外すと、ギルの奥に見えるミーナ、ロビン、ブルート、翠、ジュナ、ラヴィアンの6人に目を向ける。



「アイツら……テメーの仲間か?」


「ん、あぁそうだ。それがどうしたよ?」


「んじゃ、オレが勝ったらあの中の誰かに一生オレの奴隷にでもなってもらうか。ブタはいらねーから当然女な」


「なっ……!?」


 焦り、自陣へと振り返る。

 そこにはギルの勝利を信じて疑わない真っすぐな眼差しを向ける、6人の仲間の姿があった。



「イカれた死霊魔導士リッチ、ド派手な狐獣人ルナールに噂に名高い風の薬士キュアゼファー。それに八本手の殺戮キラーメイドに、〈戦火の凶姫ヴァルキリープリンセス〉ヴィルヘルミーナか。


 たまたまにしちゃあ、ちっと駒が揃い過ぎてんだよなぁ。テメーみたいなカスにはもったいねぇじゃねぇかよ。なぁいいだろぉ? 適当にヤキは入れっかもだけど、退学にはなりたくねーから、ガキは作らないでおいてやっからよぉ」


「てンめぇ……」


 今にもリューヤに掴みかからんとするギル。

 額がくっつきそうな距離まで近づいた時、背中越しに声が聞こえてきた。


 それはギルの小さな応援団。

 自身を世界一の熱烈な信者ファンと言って憚らない、小さな身体の大きな声だった。



>>次回は「信頼」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


 実力者たちはあらゆる方法を駆使して大聖堂に入り込んだみたい。


 あるものは壁を通り抜けて

 あるものは一瞬バロバスの時を止めて

 またあるものはバロバスに幻を見せて

 そしてあるものは単にレイアガーデンを知り尽くしていて、裏口から潜入して、と


 それぞれの能力アビリティを駆使すれば意外と簡単に入り込めちゃうみたい。


 彼らが何者なのかはきっとこの先で明らかになると思うよ。



――――――――――――

★作者(月本)の心の叫び


 ついにリューヤ戦が始まります。

 ここまで結構長かったですねえ(しみじみ)


 どんな結末を迎えるのか、ぜひご注目ください(,,>᎑<,,)

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