第19話 オーク VS バーサーカー

 ギルとクロベエから他クラスの調査を依頼されたブルートは、一人でせわしなく動き回っていた。


 内弁慶でややコミュ障なところがあるブルートだったが、それでもギルたちに役に立つところを見せたいと、やたらと張り切っていたのだ。


 しかし、入学式の印象が最悪なため、調査のために他クラスの生徒に話しかけてもほとんどの連中に冷たい態度を取られ、相手にされないどころかいきなり殴られそうになったことも。



 そうなると作戦の変更は致し方ないところである。


 このアカデミーに入学してくるほどの生徒であれば、誰しもが必ず1つ以上は有能な特殊能力アビリティを所持している。

 ブルートも例外ではなく、彼も複数のアビリティを所持していた。


 そのうちの一つが〈超嗅覚〉。

 あらゆる匂いを嗅ぎ分けることができるこのアビリティを用いて、特定の生徒の匂いを辿って行くことができた。


 そうして数日間狙いを付けた生徒の匂いを辿っていけば、自然と怪しい動きをする人物が絞られて浮かび上がってくる。


 浮上したその名はバロバス。

 奇しくも、ブルート自身が以前ギルに警戒を呼び掛けた人物であった。


 バロバスは休み時間の度にギルを監視している。

 おそらくはギルの行動パターンを把握し、あわよくば戦闘能力なども見極めたいと思っているのだろう。


 見た目のいかつさとは裏腹に、慎重な行動を取るもんだとブルートは思う。


 ギルを付け狙う理由はわからないが、そんな行動が三日も続けばいいかげん確信が持てた。



 ギルに調査の依頼を受けてから7日目の放課後。


 空はどんよりとした曇り模様。

 やがて鈍色の空から雨がパラパラと降り始めた。


 視線を上げて空を見ると、ギルはややあってから昇降口を飛び出した。

 そして校門を出て、傘もささずにいつもの帰り道を歩いていく。


 その姿を、あぜ道の木の陰に隠れて遠目から監視をしていたバロバス。  

 ブルートはその背後から声を掛けた。



「よぉ。武闘派集団の元トップが毎日ご苦労なこったぜ。ウチのクラスのモンに随分とご執心みたいじゃねぇか」


 ブルートが口に棒チョコを加えながらズボンに手を突っ込んで気合いのメンチ切り睨みつけをぶちカマす。


 バロバスはゆっくりと振り向くと、黒目の小さい細めの三白眼をブルートに向けた。



「……オマエは?」


「かぁーっ。おいおい、オレ様を知らねぇンかヨ? オリャ、J組のブルート・ターディグレイド様だ。入学式の伝説のスピーチを覚えてねぇンか?」


「覚えてない」


 言いながらバロバスは完全にブルートに対して向き直る。


 ブルートも大柄の部類だが、バロバスはそれを遥かに上回る。

 体格差は明らか。

 しかし、ブルートの挑発は止まらない。



「バロバス。テメー、一体何を企んでやがる? ギルをコソコソ付け回してどうするつもりだ、あン?」


「オマエには関係ない」


「あーそうかヨ。だがな、こっちにゃ関係大アリだぜ。テメーのダチ公を狙っているヤツをオレが見逃してやるとでも思ってンか?」


「……オマエは俺の敵なのか?」


「たりめーだろうが! おいよぉ、今からテメーとタイマン張ってやンヨ。まさか逃げたりしねーよナ?」


 ギルに瞬殺されたブルートはどこへやら。

 プッと口に加えた棒チョコを吐き出すと、自信に満ち溢れた表情で拳を合わせ、指をボキボキと鳴らした。



「わかった。立ち合いはどうする?」


「立ち合い? ンなモンはいらねーだろうが。ここはガッコの外だぜ。オリャ、喧嘩しようぜって言ってんだヨ!」


 ブルートは背中に背負っていた樫の木の極太バットをスッと抜き出した。


 グリップのボタンをポチッと押すと、バットからおびただしい数の釘が飛び出す。



「殺しゃしねーヨ。だが、オレらに歯向かう気が起きない程度には痛い目見てもらあぜ」


 ブルートがここまで強気に出られるのにはもちろん理由がある。


 彼の調査によれば、バロバスは体術は圧倒的だが魔法が一切使えないと言う珍しいタイプ。ならば当然、魔法耐性は限りなく0に近く、魔法防御は不可能。


 それならば、ほとんど勝ち確の戦法をブルートは取ることができる。

 それがこの……



動作禁止ドントアクション!」


 ブルートが手を突き出して魔法を発動。

 魔法耐性が少しでもある相手にはほとんど失敗するが、そうでない相手にならばほぼ確実に成功する時空間魔法の初歩魔法。


 その効果は術者のレベルにもよるが、最低でも5秒間は一切の動きを止めることができる。


 ブルートの狙い通り、バロバスの動きがピタリと止まった。


 こうなれば動作停止中は攻撃のし放題。

 それは一方的な暴力が可能であることを意味していた。



ったぜバロバス! 死ねヤあああ!」


 ブルートは助走をつけて釘バットをフルスイング。

 身動きの取れないバロバスのこめかみに強烈な一撃をぶち込んだ。



「手応えあったゼ…………え?」


 バロバスはバットで顔面を殴られたまま、ギロリとブルートを睨みつける。


 動作停止によって動けないのか、はたまた攻撃が効いていないのか。


 一撃で決着がつくと高をくくっていたブルートは恐慌状態に陥る。

 半狂乱の叫び声をあげながら何度も何度もバロバスをバットで殴り続けた。



「ああああ! 死ねよ死ね死ねッ! 倒れろってんだヨおおお!!」


 だが、バロバスは倒れない。

 顔面を血に染めて、ブルートを睨み続けたまま。


 そして、5秒が経過した。



「オマエ、敵――」


「う、うわああああああ!!」


 バットを放り投げ、恐怖のあまり逃げ出すブルート。

 しかしバロバスは逃走を許さない。


 巨体に似合わぬ素早い動きを見せると、あっという間にブルートの進路に回り込む。


 恐怖に怯えて後ずさると、背後の巨木によってそれ以上の後退を阻まれた。


 逃げ道は――ない。



「ああああ……」


「許せ。俺はに逆らえない」


「……何て?」


 思わず聞き返すも、次にやってきたのは丸太のような剛腕から繰り出される強烈な一撃だった。


 ブルート、一撃で顔面の骨を粉々に砕かれて失神。

 一気にHPヒットポイントが一桁まで削られる瀕死の重傷を負う。


 仮に追撃を受けていたら、確実にHPは0に。

 そうなっていたら、LP《ライフポイント》が1しかないヒューマンなら即死である。


 ブルートはバロバスに生かされたのだった。

 いつの間にか雨は本降りとなっていた。




>>次回は「中二病」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


HPは御存じ体力のことだね。

HPの数値は個体によって異なるよ。


一方で、LPはライフポイントのこと。

これはその名の通り、生命の数だね。


一般的なヒューマンはもちろんLP1。

だから、HPが0になった瞬間にLPが1から0になって死んじゃうんだ。


でも、種族やクラス、またヒューマンでもレベルやステータスが上がっていけば、LPが2以上に増えることもあるから個体差があるみたい。


あと、HPが0になったらLPは1つ減って、最大HPの50%で復活するんだ。

イメージ①:LP2、HP0 →復活→ LP1、HP50%で回復

イメージ②:LP1、HP0 →LP0になる→復活できずに死亡


こんな風に、HPが0になったらLPが1つ減っちゃって、そうして最後のLPが0になったら死亡してしまうところは一般のヒューマンと変わりないんだ。


減ったLPは元の状態に増やすまでに相当の日数がかかっちゃう。

魔法やアイテムで元に戻すこともできるけど、難易度は相当高いから、デュエルではLPが減らされる前に降参することも珍しくないみたい。


だから、生徒たちは常にLPを気にしながら戦うんだって。

今回のブルートみたいに一撃でやられちゃったら意味はないけどね(^^;



――――――――――――

★作者(月本)の心の叫び


いよいよ、第一章も後半戦!

バトルパートが続きます(^^ゞ

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