第21話 オレだって

 ゆっくりとまぶたを開き、目を覚ます。


 夢の中でずっと感じていた敗北の屈辱も、頭の痛みも空腹も、すっかりどこかへ消えていた。



「あれ? オメーら……?」


 ブルートに映った景色の中にはニシシと笑うギルとクロベエ。

 そして、J組のクラスメートであるイカれた格好をした魔法使い? の姿があった。



「ようやく起きやがったか」


「ん、あぁ……」


 夢うつつ。ブルートはまだ意識が混濁していた。

 頭を軽く振って、意識を現実に戻すと記憶を振り返る。



「そっか……全部思い出したぜ。チッ、バロバスの野郎――」


 ブルートはそうこぼして俯き、義憤を瞳に宿す。



「バロバス?」


 ギルが中腰で膝に手を当てた状態で尋ねると、ブルートはやや見上げて唇を歪ませた。



「おぅ。もう昨日……だよな。放課後だ。バロバスがオメーをつけてたから、ちょっとシメてやろうと思って声かけたんだヨ。したら、返り討ちに遭っちまってこのザマってワケだ」


 ブルートは血だらけの自分の学ランに目を落とす。

 血はすっかり固まっていて、学ランのたわみに沿ってヒビが入っていた。



「ぶはっ! そりゃオメー、あんなに弱えんだし、やられるに決まってんじゃん!」


 ギルはシリアスを気取るブルートに我慢できなくなったのか、盛大に吹き出した。


 クロベエとロビンは、顔を引きつらせて「うわぁ……」とヤバいものを見る目でギルを見つめる。



「な、なんだよっ! なんでオメーらが引いてんだよ」


「いやー、まさかここまで人の心がないとは……」


「さすがの我も正気を疑ったぞ……」


 猫と中二病にどん引かれて、ギルは急にとんでもなく恥ずかしい気分に襲われる。



「オメーのそういうとこだかんな、ギル」


 この場の流れに便乗してブルートが親指を立ててカッコつけて言うと、



「全部テメーのせいじゃねーかッ」【ズモッ】


 と、ブルートの顔面に思わず拳をめり込ませた。



「ちょ、何やってんのギル!? うわあああああ! ブタさああああん!」


 ブルート、再びHP一桁台の瀕死を負う。



「何をしているのだ! 早く回復してやれ」


 ロビンに言われて、仕方なくギルは回復魔法を発現する。



「ったく、何で俺ばっかり……」


「いやしかし、うぬが回復を扱えるとはな。少々驚かされたぞ」


「……まぁ、一番最初に覚えた魔法だからな。昔からこれだけは得意なんだよ」


 へへっと昔を懐かしんだ様子でギルが言うと、クロベエがすかさず切り込んだ。



「でも、ギルは通常回復だけなんだよね。状態異常の治癒とかそっちは全然できないんだよ」


「おまっ、うるせぇな」


「へぇ、回復だけってのも珍しいのだ。しかしなんのなんの、大した回復量ではないか。こやつ、もう全快したんじゃないか?」


 ロビンが言った直後。

 ブルート、死の淵から二度目の生還。



「おう、大丈夫か?」


「……『大丈夫か?』じゃねンだヨ! テメーがズモッとやったんじゃねーか!」


「まぁまぁ。全快したみたいだし、細かいことは気にすんなよ」


「それ、オメーが言うのはさすがにおかしいと思うぞ……」


 ようやく場の空気がおちついたのを見て、実は一番冷静なクロベエがアビリティ四次元収納4Dストレージから、水を取り出してブルートに与えた。



「おぅ、わりぃな黒猫」


「べっつにぃ。それより、何で手なんて出したのさ? キミ自身が言ってたじゃない。『バロバスは危険だ』って」


「…………そりゃ、オレだってヨ。レイアガーデンデスアカに入った以上は喧嘩上等っつーか。元々そのつもりで入学式だってカマしたんだし――」


 お前らに認めてもらいたかった

 オレだって役に立つんだってところを見せたかった

 コイツは頼りになるって思われたかった


 ……そんなことは口が裂けたって言えない。

 


 ブルートは、「ハハ……」と乾いた笑いを浮かべて誤魔化そうとする。

 すると、その様子を黙って見ていたギルが、突然「くくっ」と吹いて、満面の笑みをこぼして言う。



「なぁ、お前ってたんぱく質とビタミンが豊富だったりする?」


「……は?」


「知能が高くて綺麗好き?」


「……ブタじゃねーし」


「人間用に味付けされた食材は食べられないんだよな?」


「ブタじゃねーし!」


「どんぐりやナッツ、きのことか、なんでも食べる?」


「ブタじゃねーし!!」


「ぶははははは!」


 ブルートへのブタいじりに満足したのか、ギルは大声で笑いだす。



「はー、面白え。つーかブタ。あとは俺に任せとけよ」


「ブタじゃねーし!」


「ニシシ。まぁよ、このガッコデスアカは弱肉強食。でもな――」


「??」


 ギルが珍しく照れくさそうにこめかみをポリポリと掻いている。

 三人の目線がギルに向けられると、「あー!」と何かを振り払うように、ちょっと大きな声を出した。


 

「だからぁ! その……まぁ、なんだ。オメーは一応俺の友達ってことらしいから、ちゃーんとケジメだっけ? それは取ってきてやるっつってんだよ」


 何だかその場がちょっとほっこりした。



「ギル、オメー……」


 ブルートにいたっては感動したのか、ブタ面をウルウルさせている。



「気持ちわりぃからそんな目で見るんじゃねーよ!」


 ギルがブルートを振り払う仕草を見せていると、足元に何かがヌチャヌチャと音を立ててやってきた。


 ギル、ブルート、クロベエの丁度真ん中にその黒い物体は停止すると、グチョネチャと不気味な音を立てながらマドハ〇ドのような腕だけの形に変形した。



「うわぁ! 何だコイツ!?」


「我が使い魔、魔苦蛾腐マクガフじゃ。うぬらと握手がしたいみたいじゃな。みんな、可愛がってやってくれ」


「「「キモッ!」」」


 その不気味さに三人はダッシュで逃げ出した。

 マクガフは全力でなぜかブルートを追い回す。



「なんでオレを追ってくんだヨぉ!」


 ブルートの心の傷ダメージはもうすっかり消えていた。




>>次回は「エッジロードリッチ」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


ギルは一番最初に回復魔法を覚えたんだ。

当時は回復魔法しか使えなくて、状態異常治癒なんかの他の白属性の魔法はどれだけ練習しても使えるようにならなかったんだよね。


その理由と言うのが、ギルにかけられた呪いのせいらしいんだけど、その辺りの話はいずれ本編で出てくるはず?

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