第17話 四角関係はこんがらがって

 入学から10日が過ぎた。


 この頃になると、新入生の顔にもようやく緊張がほぐれた様子が伺え、各クラスの中でもグループらしきものが形成されつつあった。


 そんな中、相変わらずギルはマイペース。

 クラスで話すのは、しょっちゅうつきまとってくるブルートくらいで、他のクラスメートとはまだまともに会話がない状況。


 帰りのホームルームが終わり放課後。

 グループ同士でワイワイと楽しそうにおしゃべりをしながら教室を後にする生徒の中で、ギルは机に突っ伏した状態からようやく顔を上げると、ぼーっと周りを見渡す。


 すると、宙にふわりと浮いたクロベエが目の前に姿を現す。

 黒い子猫は可哀想なものを見る目をこちらに向けていた。



「ねえギル。キミってボッチになってるんじゃない?」


「ボッチ? なんだそれ」


「友達がいない、交友関係がない、孤独な身の上、誰からも相手にされないクソつまんない人生を送っている人のことだよ」


「……お前の言い方もあるんだろうけど、そう言われるのはすご~く嫌だな」


「でしょー? なら、キミももう少し積極的になった方がいいって」


 クロベエにしては至極まともなことを言っている。

 ギルは返す言葉が見つからず、「うむむ……」と唸っていた。


 ギルは初等部1年生の1学期、つまり6歳で学校に行かなくなり、その時からずっと世界各地を渡り歩き修行の日々を過ごしていたので、集団生活の経験がほとんどなかったのだ。


 幼稚園には行っていたけど、その頃の記憶なんてほとんどないし、これはどうしたものかと思案に暮れていると、教室の前のドアが突然ガラッと音を立てて開かれた。



「やほー。ギルいるー?」


「あー、じろきちだー!」


 ドアから顔を覗かせたのは、C組のジュナとすい

 まだ夕暮れは肌寒い時期だと言うのに、ジュナは季節感をガン無視して真っ赤な水着にショートパンツというど派手な格好をして校内をうろついているので、すでに学年でもトップクラスに目立つ存在になりつつある。


 そしてその後ろに隠れるようにして、紺地のメイド服を着た幼女の翠がいる。翠は顔を赤らめて、俯きながら口をあうあうさせている。



「ほれほれ、せっかく会えたんだしー、ちゃんと自分で伝えてみるのじゃ」


「もし……ええっと、その……あの……」


「?? どうした?」


 ギルは席を立って二人に近づいていくと、翠の目の前でしゃがんで目線を合わせた。



「あっ……えっと、その――」


「翠がおヌシと一緒に帰りたいって。な、翠?」


「もー、お伝えしてしまっているではないですか! あ……」


 ジュナは昔と名前も見た目もかなり変わったけど、翠は見た目も中身も昔の翠のままだなぁなんて思いながら、ギルはつい笑ってしまう。



「おー、いいぜ。どっかのバカ猫が俺のことをボッチだか何だかって言いやがってたけどよ。全然全然、俺にだってちゃんと友達がいるじゃんか」


 ギルはさっきクロベエに言われたことを根に持っていたようである。

 そんなギルの物言いに、いつものクロベエなら、


「なにをー! 本当のことじゃないか! クラスにはブタ以外誰も話せる相手がいないくせに」


 とか何とか言って激おこになるところ、想い人であるジュナが目の前にいるからなのか、デレついていてギルの話など全く聞いていない様子。


 そんなこんなで、クロベエも含めた4人で教室を後にする。



「ギルよ。翠は普段はのんびりしていて、目を離すとすぐにはぐれてしまうから、手を取ってやってはくれぬか」


 正面玄関を出たところでジュナに言われると、ギルは頷いて翠の小さな手を取った。


 翠は顔を真っ赤にしながらも、ジュナに感謝しつつ、ギルの手をぎゅっと握っていた。


 そうして手をつなぎながら、仲睦まじく校内を歩くギルと翠は少し歳の離れた兄妹のようだった。


 が、ここは騎士魔法学校アカデミーである。

 校内に残っている生徒から見れば、メイド幼女の手を取って歩く男の姿は割と異様に映ったようで。



「おい見ろ。アイツ、J組のギルガメスだよな?」

「ああ、ガキの頃からハードプレイでならした、鬼畜のど変態って噂を聞いたぜ」

「そりゃマジだろ。今だって、どう見ても6歳かそこらのメイド服着た幼女と手を繋いでニヤついてやがるし」

「てか、あの服ってぜってぇアイツの趣味だろ」

「ヴィルヘルミーナさまに子供の頃、全裸で襲い掛かったんだよな? 性に目覚めるのが早すぎてマジ震える。。」

「……見れば見るほど、おぞましい笑顔だぜ」

「ハードプレイ大好きの鬼畜で変態、さらにメイド好きのロリコンって、数え役満ツモ上がってんじゃねーか」

「あんな鬼畜をのさばらせておく訳にはいかねーな」

「だな。近いうちにヤっちまうか」

「よし、早速作戦を立てようじゃねぇか」


 と、誤解が更なる誤解を生み、知らぬ間に敵を増やしてしまっているギルであった。


 そして、彼らとはまた別の場所。

 校内の噴水の陰からそんな二人を遠目に見て、怒りで身体をぷるぷると震わせる人物がいた。



「~ッ! 何なのよ、その女の子は。ギルくんってば、しばらく会わない間にとんでもない見境なしの女たらしオールラウンダーになっちゃってるしぃ!」


 そう言って、ヴィルヘルミーナ・ラバンは握りしめていたハンカチを引き千切らんばかりの勢いで噛み締めていた。



「……まさか翠さんのような若い子が好みだったとは。でも、背が小さい子がいいなら私だって負けません! それに一緒に過ごした時間は私の方が――」


 そう言って、偶然にもミーナのすぐ横で、ラヴィアン・ヘイクスは瞳に炎を浮かべ、謎の闘志をたぎらせていた。



「ん?」「え?」


 同じ方を見ていた二人は、隣人の存在に気づき、気まずそうに目を合わせる。



「あ、あはは……」

「ど、どーも……」


 ギルと4歳から6歳まで毎日のように幼稚園で一緒に過ごした、同級生たちから執拗にいじめられていたギルを守り続けた恩人であるミーナ。


 ギルと7歳から9歳まで一緒に旅をし、時空を超えた先で共に死線をくぐり抜けた仲間であるラヴィアン。


 この二人と翠、そしてギルを含めた四角関係がアカデミーに巻き起こる。


 なぁんてことはあるかは分からないが、ギルはこうして少しずつ旧友との距離を再び縮めていくのであった。




>>次回は「精霊の噂」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


ミーナはこのお話の前日譚、


聖魔のギルガメス〜呪われた少年は英雄になる夢を諦めない〜

https://kakuyomu.jp/works/16817139558143902273


の第一章のヒロイン。


ラヴィアンは第三~四章のヒロインで、翠も同じく四章に登場していたんだよ。


四章時点でギルは9歳だったから、恋愛なんて感じにはならなくて、可愛い恋心くらいだったような気が。


ちなみに、この物語はラブコメではありませぬぞ(;・∀・)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る