第16話 依頼
ギルたちが教室に戻ると、ちょうど1時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴っていた。
担当教師は教室の後ろドアから入ってくるギルとブルートに気づくが、何も言わず前のドアから出て行ってしまう。
レイアガーデンでは、サボりや無断欠席に関しては特に注意されることはない。
このアカデミーが成果重視の超実力主義を掲げているからである。
その一方で、学期末の時点でポイントがマイナスの生徒に関しては容赦なく強制退学となる。
つまり、入学時ランキングが低い生徒は常にギリギリでの立ち回りが求められ、テストで赤点を取ったり、イベントでミスをしたり、デュエルで連敗などしようものならあっという間にポイントがマイナスの危機に瀕することになるのだ。
その日の昼休み。
ギルたちは、いつものように教室のベランダで昼食をとっていた。
「ギルよォ」
「ん?」
「お前、これで
「だな。それがどうした?」
「んじゃそろそろ最下位も脱出したんじゃねぇかと思ってヨ」
「おー、言われてみればそうだな。ちょっと見てみるか」
ブルートに促されて、ギルは生徒手帳を床に広げる。
タイムラグはあるものの、ビンスと
もうさすがに反映はされているだろう。
――――
所属:1年J組
氏名:ギルガメス・オルティア
褒章:4
学年ランキング:400位
――――
褒章4と記されてはいるものの、順位は相変わらず400位のまま。
それを覗き込むギル・クロベエ・ブルートは揃って「う~む」と首を傾げていた。
「これってどういうことだろ?」
ギルが口にすると、クロベエは肩からすたっと飛び降りて、生徒手帳を肉球でペタペタと触る。
「う~ん、特に細工された痕跡や不具合は感じないね。たぶん情報としては間違っていないんじゃないかな」
「ってことは、ギルの前の順位の399位とか398位とかのヤツも同じかそれ以上のペースで褒章を獲得してるってことなンか?」
ブルートの疑問にクロベエは生徒手帳から視線を外さずに答える。
「まぁ、そういうことになるだろうね。そんな低い順位の連中が揃ってエンブレムを獲得していることは不自然ではあるけど、こっちの先手を取るように獲得していると考えないと辻褄が合わないや」
「俺らの動きがバレてンじゃねぇのか?」
「いや、俺らじゃねーし。何お前、『俺たちは仲間だぜぇ。うぇい!』みたいな雰囲気出してんだよ。てか、もう邪魔だからあっち行けよ」
「そんなこと言うなよお(涙目)。俺だって役に立つ時はあンだからヨ」
「ないない。だって、お前ってば見掛け倒しのハッタリ野郎じゃん」
「そう言うことを本人を目の前にして言うンじゃねぇヨ!」
「なら、お前は何ができんのよ?」
ギルは弁当のメインのおかずである、〈ロックイーグル〉と言う名の野生モンスターの骨付きグリルをガブリとワイルドにかじりながら尋ねる。
「オリャ、こう見えて情報収集なら得意だぜ」
「んぐんぐ、そんな目立つ図体と格好をしているくせに?」
「図体も格好も大した問題じゃねぇんだって」
「なら、他クラスの目立ったヤツらの調査を任せてもいいか?」
「!? も、もちろんだぜぇッ」
ブルートは初めて頼られたことがよほど嬉しかったのか、拳を握りしめてガッツポーズを見せた。
頼みごとを終えて、ギルが弁当箱のから揚げを手に取ろうとすると、ちょっと目を離した隙にめちゃくちゃがっついて食べまくっているクロベエの姿が。
「おまっ、それ俺の!」
「もぐもぐ、ごきゅん。ぷはぁ~、食べたぁ」
「『食べたぁ』じゃねぇよ! 俺の楽しみを返せよおおお!」
「無理無理、もうボクの胃の中だし。それよりブルートぉ。さっきの話だけど、一人で大丈夫かな?」
ギルが楽しみにしていたおかずを取られて悲しみに暮れている中、クロベエはブルートに念押しをする。
「一人でって、ギルからの調査依頼のことだよな? もちろん問題ねぇゼ」
「そっか。ならいいんだ。でも、これだけは覚えておいて。ボクたちは足手まといは必要としてないよ。これからのことを考えたら、各自が己の役割を十分に果たしていかないと生き残れないと思う。このアカデミーでは……ね」
ブルートはその言葉を聞いた時にカチンと来てクロベエを一瞥したのだが、その表情は少しも冗談を言っている類のものではなかった。
単なるお飾りのペットでも使い魔でもない。小さな黒猫が突然見せた、静かな迫力にブルートは思わず息を呑んだ。
「ん、んなことわかってるっつーの」
「よし、おっけーい。じゃあよろしくね~」
クロベエは途端に表情を緩めると、ふわふわと宙に浮いてそのままどこかへ飛んで行ってしまった。
ギルは、「俺のおかず……」とまだ嘆いている。
その横でブルートは形容しがたい気持ちの中で、次第に大きくなる焦りを隠せずにいた。
このアカデミーは中等部までのような
ついて行けなければ置いていかれる。
そして、弱者は淘汰され、強制退学。
通うことすら許されず、ドロップアウトという過去と屈辱が一生ついて回るだろう。
(ナメてんじゃねぇぞ、黒猫。必ずテメェらの役に立ってみせるぜ)
決意を新たにするブルートの眼前には薄暗い雲が広がっていた。
>>次回は「四角関係はこんがらがって」と言うお話です!
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★作者(月本)の心の叫び
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