第15話 呼び水

【古代魔法研究部 廃部室内】


 そこはアカデミー敷地内にポツンと離れ小島のように存在する、現在は使われていない部室で、1年B組の一部の生徒たちのたまり場と化していた。


 その場にいた生徒たちは薄暗い部室の中で光の精霊ウィル・オー・ウィスプからの映像を映したモニターを見つめていた。



「リューヤくん。なかなか興味深いが撮れましたね」


 B組に所属する、隣国の特殊偵察部隊出身のスケイプと言う名の少年が、同じクラスの竜人族ドラゴニュートの少年に向かって話しかける。


 竜人族ドラゴニュートの少年は革の所々が破けたソファに腰かけ、テーブルの上に両足を放り出したまま。


 手にはトランプのカードを持ち、マジシャンのような曲芸的な技カーディストリーを繰り返していた。



「ふぅん。他のクラスでもチョロチョロと小競り合いが始まってんのはいい傾向じゃねぇか。でも、こんなザコ同士がいくらやり合ってもは動かねぇだろうけどな」


 竜人族ドラゴニュートの少年の名は、リュー・ヤーネフェルト・ゼルレギオス。



 入学ランキング10位/400人中


ドS賭博師サディスティックギャンブラー〉の通り名を持つB組の生徒である。



「上って、リューヤくんが気にしているランキングの上位者ですよね?」


「あぁン? 誰が気にしてるって?」


「あ、いや……」


「オリャーよぉ、早ぇーとこ一年をシメちまいてぇだけだ。誰がコツコツと決闘デュエルなんてやるかよ。かったりぃ」


「は……ハハ」


 スケイプは顔を引きつらせながら、「ですよね……」と震えながら声を絞り出していた。

 


「リューヤくん。じゃあ、どうするおつもりで?」


 別の生徒がそばで後ろ手を組んだまま尋ねる。

 


「まぁ、コイツを使えばいいんじゃね? せっかく奴隷……いや、オレの手札にしたんだし……なッ!」


 そう言って、リューヤはカードを鋭く投げた。



「ぐぅっ」


 リューヤの投げたカードは椅子に座ったまま両手両足を鎖で縛られていた、身体中だけでなくスキンヘッドにまでタトゥーが入った巨漢の男の上半身に突き刺さった。


 男はすでに身体中に数十枚のカードを突き刺されており、顔はリューヤに殴られ過ぎて原型を失っている。

 部室内には血の匂いが充満していた。



「バロバス。テメーは決闘デュエルでオレに負けたんだよナァ。これはデュエルの勝利者報酬であり契約だ。オレ様の手札として、ご主人様の命令にはきっちり従ってもらうぜ」


「ぐっ……わかっている」


「よぉし、いい子だぜ。んじゃ、バロバス。テメーはJ組のヤツやってこい。んーと、さっきの名前は何つったっけ?」


 リューヤがスケイプの方を見る。

 スケイプは慌てて口にした。



「あ、はい。J組のギルです。ギルガメス・オルティア」


「あーそー。そいつ。頼んだぜバロバス。どんな手を使ってもいいからよ。テメーに一週間くれてやっから確実にブチ殺してこい」


「あぁ……わかった」


 バロバスの言葉を聞くと、リューヤは満足げな表情を浮かべて、人差し指をくるりと回し魔法で鎖を解除すると、続けて回復魔法をバロバスに施した。


 その言葉や態度とは裏腹に、しっかりとした魔法の技術を持ち合わせているようだ。



「オレたちはまた光の精霊ウィル・オー・ウィスプでずっと見張ってっからよ。テメー、バックれたらどうなっかわかってんな?」


「……そんなことはしない。強いヤツと戦えるのはうれしい」


「ククッ……頼もしいじゃねぇか。じゃあ頼んだぜ、オレの操りデク人形くん」


「……」


 何も言わずにバロバスは部室を後にした。

 扉が閉じたことを確認すると、スケイプはリューヤに言う。



「あの二人が戦って、もしバロバスが負けたらどうするおつもりですか?」


「ハァ? 別にどうもしねぇよ。アイツらは上の連中をあぶりだすための単なる呼び水みてーなもんだからな」


「呼び水?」


「そうだ。あちこちでどっかんどっかんと決闘デュエルが始まれば、大人しくしていたヤツも触発されて動き出すだろうからな。だからアイツらの決闘デュエルなんざ所詮は呼び水だって言ってんだよ」


「……」


「ククッ、これから面白くなるぜぇ。血の雨がアカデミーに降るってか」


 リューヤは何とも愉快そうに大声で笑った。


 周りで聞いていた数人の取り巻きは表情を曇らせて、いつまでも続く笑い声を苦笑いを浮かべながら黙って聞いていたのだった。





「わぁ、光の精霊ウィル・オー・ウィスプだぁ。随分と古典的な偵察手段だけど、見た目はふわふわしててカワイイなっ。……うひひ」


 そのJ組の少女は、休み時間に1人、屋上で金網越しに空を見上げて興奮気味にピョンピョンとその場で飛び跳ねていた。


 その姿は頭から全身にかけて、大きく黄色いくちばしが特徴的な小鳥を模したぬいぐるみフードを被っており、口元しか見ることができない。


 見るからに陰鬱陰キャな雰囲気を漂わせ、ぼそぼそとずっと独りごちている。



「……確かウチのクラスに一人、とびっきりの被呪者の子がいたっけね。ふ~ん、そーゆーことなんだぁ。もう他のクラスの悪い子に目を付けられちゃったんだね、かっわいそぉ。デスアカデミーなんてウサギと亀の物語と一緒。最後の最後で頭一つ抜け出せばいいのにね。……おマヌケな人たち」


 彼女はそう呟いて、クククと口元に笑みを浮かべた。

 その時。



【バコーン】「あいたあっ!」


 屋上でボール遊びをしていた他クラスの生徒の流れ弾が彼女の頭に直撃した。



「あー、ごめんなさーい。大丈夫?」


 ボールをぶつけてしまった生徒たちが小走りで謝罪を口にしながら近づいてくる。



「ああああ。だだだだ、だ、大丈……夫……でしゅ」


 少女はめくれたフードを被り直すと、足元にあったボールを恐るおそる渡す。



「本当に大丈夫? あなた、様子がちょっと変じゃない?」


「きききき、気のせいでしゅっ(ガブリ)!!? ぷぎゃあああ!!」


 少女は慌てまくって舌を噛んだ。

 口からドクドクと血を流しながらも、手で押さえながら全力でその場から走り去る。



「な、なんかすごい子だったね」

「うん、気配を消していたつもりかもしれないけど、逆にめちゃくちゃ目立ってた」


 彼女を間近で見た生徒たちが素直な感想を漏らす中、そのJ組の少女は口の中を治癒しながら教室に向かって全力疾走中。



 J組に存在するという要注意人物。

 その正体は今のところはまだわかっていない。




>>次回は「依頼」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


光の精霊ウィル・オー・ウィスプは、この世界に古くから伝わる召喚精霊。

彼らは意思を持っているんだけど、基本的には召喚者の命令に従順で、この世界だと今回のように主に偵察に使われることが多いみたい。


他には、伝言だったり、強力な個体だと魔力を運搬したり、対象にくっついて動きを止めたり、初歩の魔法なんかも使えたりするらしいよ。

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