異世界デスアカデミー~学年最下位から始まる、狂想の学園生活へようこそ~

月本 招

第一章

第1話 紺碧の空の下、奇跡を目指し集いし者たち

 ドーン! ドーン! パラパラパラ――


 雲一つない澄み渡る陽春の空に、早朝から花火が打ち上がっていた。

 柔らかな日差しに包まれた本日、アカデミーの入学式。


 ここは王国最難関と呼び声の高い超名門。

〈レイアガーデン騎士魔法学園アカデミー


 今年も、全世界各地より超難関をくぐり抜けた、魔法や武芸、頭脳、そして一芸に秀でた、王国……いや全世界の未来を担う若者たちがこの地へと集結。


 新入生たちは緑の中を一直線に抜けるメインストリートを、それぞれの思いを胸に抱き通り過ぎていく。


 その光景はさながら、全国各地の中等部で名を馳せた、化け物じみた猛者たちのお披露目会ランウェイの様相を呈していた。



 彼らの様子を見守る在校生の視線は真剣そのもの。

 新入生が通り過ぎる度に大きな歓声が上がる。


 とりわけ、注目を集めていたのは――



「おいッ、あの超絶美人を見てみろぉ!」


「オレンジがかった金髪! 紺青色の少し目じりの上がった切れ長の瞳! そして上向きのゆるふわポニーテール! スラリとしたスタイル! 程よい大きさの胸のふくらみに引き締まった脚! さぁ俺の顔面を力の限り踏みつけてくれぇ!」


「あのお方ってもしかして……ラバン辺境伯のご令嬢……?」



 校舎の門をくぐり、颯爽とメインストリートを歩いていく、ひときわ目を引く金髪蒼眼の美少女。


 赤地に白と黒のストライプが入った制服のミニスカートからは白く長い脚がスラリと伸びて、服装自由の上着は純白のシャツにサックスブルーのカーディガンを腰で結んでいる。


 その後ろには長身の少年が後をついて歩いている姿も。



入学ランキング17位/400人

戦火の凶姫ヴァルキリープリンセス〉こと、ヴィルヘルミーナ・アルヴェスタ・ラバン。




「うわ、あそこの小柄な子も可愛すぎないか!?」


「エルフかな? ふわぁ、耳が尖ってて肌白ぇ。……てか、あのおっぱい……イイ。じゃなくて、何ともけしからんおっぱいじゃないかッ!!」


「あれ、薄紫色の髪のエルフ? ってまさか、9歳で万能薬を独学で開発したって言う、あの不世出の天才と呼び声高い薬士の……」



 その小柄な少女の表情は喜びに満ち溢れていた。

 ふくよかな胸を弾ませて跳ねるように歩いている。


 ショートカットで、髪の編み込みカチューシャがお洒落な、エルフ族には珍しい淡紫の髪色。


 目の色は翠緑すいりょくで、アカデミー指定の制服ではなく、服装自由を選択したのか、薄ピンクのつなぎをひざ下でまくっていて、袖を腰下で結び、上半身はチラッとヘソ出しのノースリーブニット。


 やや大きめの白衣を肩を出すようにゆったりと羽織っている。



入学ランキング15位/400人

風の薬士キュアゼファー〉こと、ラヴィアン・ヘイクス。




「向こうを見ろ! 今、門をくぐってきた二人組」


「耳が生えてる? 獣人、キツネか? う……それより、みみみ、水着着てんぞ! 上がビキニで、下はエッロいショートパンツ。スタイルがいいにも程がある! まったく、馬鹿げたカラダをしやがって! それに、可愛い顔してつり目仕立てのオレンジピンクのどぎついアイシャドウ、いやもはや隈取かっ! 何なんだあの子!」


「その横に隠れているもう一人は童女? オンザのパッツンにメイド服ッ!? てか、めちゃくちゃ可愛いけど完全に子供じゃねーか! この奇妙な組み合わせ。この二人、一体何者……?」



 狐の獣人ルナールは銀色の瞳で金髪のサイドテール。

 健康的な肌に派手なアイシャドウ。形の良い胸を包む水着にショートパンツと、見るからに陽キャ全開のいで立ち。


 一方の童女は、前髪パッツンの黒髪ショートボブ、紺地に白エプロン、頭には細かい装飾が入ったホワイトブリムというメイド服を着用。

 腕の中に大事そうに怪しげなぬいぐるみを抱えている。


 獣人の横を落ち着かない様子で歩いているその姿は、周囲に違和感を抱かせる妙な組み合わせであった。



 入学ランキング4位/400人

通り名不明アンノウン〉ジュナ


 入学ランキング8位/400人

通り名不明アンノウンすい




「(ゴクリ)あ、あれ……アイツ。あの肩に浮かんでいる竜の紋章って竜人族ドラゴニュートじゃねぇの?」


「おお、お前、〈アイツ〉とか言ってんじゃねぇよ。聞こえたらマジでぶっ殺されんぞ……」


「あぁ……ありゃ噂に聞こえた〈サディスティック・ギャンブラー〉。絶対に関わっちゃいけねぇ野郎だ……」



 青髪に橙色の双眸。

 赤いタンクトップの上に竜革製の紺のライダースベスト。

 剥き出しの両肩には竜の紋章が刻まれている。


 両耳にリングのピアスを開けており、その均整の取れた身体と細く鋭い爬虫類のような目つきが相まって、圧倒的な強者のオーラを辺りに撒き散らしていた。



 入学ランキング10位/400人中

ドS賭博師サディスティックギャンブラー〉こと、リュー・ヤーネフェルト・ゼルレギオス。




 世界各地の中等部で名を馳せた実力者たちが続々と登校し、レイアガーデンが生徒たちが熱気と興奮に包まれていたのと同じ頃。


 レイアガーデンへと続くあぜ道を、首の後ろで両手を組み、のんびりと口笛を吹きながら歩く少年の姿があった。



***



【ヒッヒィイイン! ドドドドドドドド】


 後方から大きないななきと、ひづめの爆音を響かせた10頭を超える馬に乗った集団が、道を歩く少年に向かって近づいていく。


 その馬たちは派手な鎧を着せられて、体毛も魔法によって全塗装オールペン玉虫色マジョーラカラーなどに、それは派手に染め上げられていた。


 爆音に気づき振り向いた少年が、珍しい姿の馬に興味を惹かれてボーッとその光景を眺めていると、その脇を次々と集団が大騒ぎしながら通り過ぎていく。


 が、集団の最後尾。

 馬を二人乗りで走らせる人相の悪い男たちの顔が、妙に少年の近くに接近してきた。


 と思ったら次の瞬間、


「ペッ」【ガンッ】


 と、顔に唾を吐かれたそのすぐ後に、こん棒で頭の側頭部をフルスイングされると、少年はその衝撃で反対側の側頭部から地面に叩きつけられた。


 肌に残る「べちゃっ」という気色の悪い感触と側頭部への突然の一撃。

 すぐに頬から悪臭が漂ってきて、少年は側頭部の痛みもあって顔を歪めた。



「ヒャッハーーーッ! バーカバーカ! テメェは死ねっ!」

「トロくセーんだよ! バーーーカ! 文句あんなら来てみろや! 殺すぞ!」


 馬に乗った集団は大喜びで去っていく。


 クラクラしながら視線を上げると、先ほどちょっかいを出してきた馬の背に乗った二人組は少年に向かって舌を出し、何度も中指を下から突き上げまくってご機嫌の様子だ。




【ダダダダ】


「ん? 何の音だぁ」


【ダダダダダ】


「お、おい、さっきの野郎、追ってくんぞ」


「はぁ? バカ言え、こっちは時速80km以上で走ってんだぞ。ヒューマンなんぞに追いつかれるわけねーだろが!」



 少年は手のひらをピンと伸ばし、膝を高く上げた短距離走者スプリンターのような美しいフォームで馬に乗った集団のすぐ後ろにまで迫っていた。



「行け、クロベエ」

「おぅ、ボクにまかせろー」



 クロベエと呼ばれた黒い子猫がすーっと空を飛び、輩の集団の前へと回り込む。


 そして、「変化メタモルフォーゼ!」と声に出すと、ボフっと音を立てて巨大なドラゴンへと姿を変えた。


 その巨大なドラゴンを目の当たりにして馬たちは驚き、前足で踏ん張り、後ろ足を高く上げて急停止。


 輩の集団は馬の背から勢いよく空へと放り出されると、そのまま地面に激突した。


 大半の者はすでに気を失っていたり、ドラゴンのあまりの迫力に怯えて全力で逃亡。


 だが、先ほどの二人はなかなかしぶといようで。



「いっ……てぇ……」

「クッ……何だよ……さっきのドラゴンは」



 上半身を起こし、尻もちをついた状態で輩二人が顔を上げると、頬に唾がかかった少年が腕組みをして、二人を見下ろしていた。



「やーキミたちぃ、朝っぱらから随分とナメた真似をしてくれるねぇ。ここで死にたいのかな?」


「はぁあああ!? んだとゴラァ!」

「死ぬのはテメーだ! 二対一だぞ、状況わかって――」


 輩が啖呵たんかを切っている最中に少年はいそいそと靴を脱いで、その靴で下からアッパー気味に顔をスコーンと振り抜いた。



「ぐぉっはぁぁあああああああ!」


 輩の一人は再び宙に放り出されて、十数メートル先に頭からドスッと落下した。

 声はない。どうやら気を失ったようだ。



「ててて、テメー! 何モンだ!? 名を名乗りやが――」


 少年は輩が言葉を言い終える前に、くるりと身体を回転させてバックハンドブロー気味に手に持った靴を適当にズバーンと振り抜いた。



「しぎぃやぁぁあああああああ!」


 輩はゴロゴロと回転しながら十数メートル先の大木に勢いよく激突した。

 声はない。どうやら気を失ったようだ。


そして――



「ったくクソうぜーな。ザコいクセに朝っぱらから張り切って絡んでくんじゃねぇよ」


「あ、ねぇ。コイツら、レイアガーデンの校章バッジつけてるよ」


「ウソだろ……こんなバカそうなヤツらが? どうする? もうこんなんにしちゃったけど」



 少年は唾の付いた顔を輩の制服でゴシゴシと拭いたあと、輩二人を顔がわからなくなるくらいボッコボコにしていた。


 そして、近くの川で百回くらい顔を洗った後、少年は「プププ……」と笑いを堪えながらロープで足首を縛ると通学路沿いの木に全裸で逆さの宙吊りにする。


 そして、一緒にいたしゃべる黒猫のクロベエと共に悪魔のような微笑みを浮かべながら輩の顔面に小便をぶっかけていたのだった。



「ふぅ~。まぁいっか。これでコイツらも人に迷惑を掛けたらどうなるかが身に染みてわかっただろうよ」


「でもいいのかい? こんなことしていたら入学式に遅刻しちゃうんじゃ?」


「あ……そりゃちょっとマズいかもな」


 春の日差しが降り注ぎ、前髪が風に揺れる。

 少年はへらっと笑うと、両手をポケットに突っ込んだまま、湖の向こうにそびえる巨大な校舎を見つめていた。



「……ギル。キミ、ここへ来た目的を忘れてないよね?」


「ん、あったりまえだっての。――だろ。リミットは三年。しくじったら、って脅されちまったしな。まぁ、命懸けでやるしかねーわな――」


 銀髪に若干目じりが下がった、一見優し気な印象を与える深紅の眼。

 引き締まった上半身には白Tシャツの上に黒い半そでのジップアップパーカーを羽織っている。


 アカデミー指定のパンツは黒で少しゆったりめ。

 足元にはなめし皮のワークブーツ。


 首からは魔法陣が描かれた深紅のペンダントトップの首飾り《ネックレス》をぶら下げている。


入学ランキング400位/400人中

通り名不明アンノウン〉ギルガメス・オルティア。



 これは異世界より謎の転生を果たした少年が、王国最難関の超名門校〈レイアアカデミー〉に入学し、その中で最強の座を目指し、いつか世界を救う英雄になる?


 そんなお話のはず。




>>次回は「デスアカデミー、開演」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


レイアガーデンアカデミーの制服は基本的には上は自由(男女ともに推奨のブレザーはある)で、下の衣服は指定となっているんだよ。


男子はパンツ、女子はスカートで、柄やカラーバリエーションも豊富。

自分の好みで色を選ぶことができるのは生徒たちからも好評のようだね。


ただ、スカートやパンツが嫌だという生徒は服装自由を選ぶこともできるみたいだよ。


――――――――――――

★作者(月本)の心の叫び


第一話をお読みいただきありがとうございます!

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