第2話 デスアカデミー、開演

【この世界でたった一人、奇跡が叶う唯一の地】



「奇跡の生誕地」こと、レイアガーデンアカデミー。


 名実ともに国内最高学府であり、その騎士魔法学園アカデミーを卒業さえすれば、一生安泰と言われる超がつく名門校。


 そして、このアカデミーに古くからある言い伝えこそ、

 

【このアカデミーを首席トップで卒業した者には、どんな願いも一度だけ叶えてくれる、通称〈死神の加護〉が与えられる】


 というものであった。

 

 しかし、100年の歴史を持つこのアカデミーにおいて、実際に加護を手にしたものは

 

 それでも、毎年のように入学希望者が殺到するのは、一生安泰の生活を手に入れるためか、それとも……。



***



 生徒たちはアカデミーの大聖堂に続々と入場していく。


 今年は入学者が多いために10クラス。

 入学時ランキングや科目の得意不得意など、クラスごとのバランスが良くなるように入念なシミュレーションを繰り返し、編成されたということであった。

 

 クラスごとに生徒が指定の席に着席する中、司会の良く通る声で式の開始が宣言される。



「時間になりました。それではただいまより王国暦1018年度。レイアガーデンの入学式を――」


「あー、どもども。すいませんねえ」


 大聖堂の大扉をそーっと開き、〈ギルガメス・オルティア〉は目立たないように身をかがめて自席に着いた。



「おい何だねキミは! 新入生は席に着きなさい!」


 それは式開始から間もなくのことだった。


 教員の言葉に耳を貸さず、1人の獣人の少年が巨体を揺らして大聖堂の壇上へと鼻くそをほじくりながら歩を進める。


 壇上で丸めた鼻くそを教師に向かって挑発するかのように飛ばすと、壇上の演台に両手をバンと叩きつけた。


 その男は一目でわかるオークだった。

 ただ、遠目では一般的なオークよりも、さらにブタ鼻が際立っているように見える。


 2m近い大柄な体に真っ黒な髪の前髪を高くして量感を出し、両横の髪を後方に流して整髪料でベッタリとなでつけた、いわゆるリーゼント。


 パンツは学園指定のものを改造し、やたらと幅広で裾がぎゅっと絞られた、いわゆる極太のボンタン。


 真っ赤なシャツの上には、細いベルトの遥か上に位置するほどの丈しかない、通常ボタンが5つに対して3つしかない極短ランを着ていた。


 念のために言っておくと、レイアガーデンの指定の制服はである。


 そんな不良丸出しの格好をした少年が、来賓がハの字になって座っている目の前、誰もいない演台中央のマイクを左手に取り、天高く右手の人差し指を突き上げて野太い声を大聖堂に響かせた。



「あー、ようこそテメーら! この王国最難関と言われるクソアカデミーへ。オレはブルート・ターディグレイド。このレイアガーデンの頂点トップを取る男だ。文句があるヤツは決闘デュエルを受けてやっからいつでもかかってこいヤ!」



「ア”ァー!!?」

「んだテメーは!? 殺すぞ!」

「このあと即ッてやっかんなァ!」

「死ねー、クソダサ化石野郎!」



 その言葉に、血気盛んな新入生は一瞬のうちに、地鳴りのような大声を張り上げて呼応する。


 鉄パイプ製の椅子の上に立ち、手に持っていたペットボトルやカバンを壇上へと投げまくる。中にはパイプ椅子を投げる者、弓矢や魔法を放つ者も。


 大聖堂は一瞬のうちに混沌カオスと化した。



「ねぇ、なーに、あのブタさんは? オークかな?」


 頭上をモノが飛び交う中、ギルの肩の上にちょこんと乗っている黒い子猫のクロベエが尋ねる。



「いや、俺に言われても知らねーってば。まぁ、ここレイアガーデンが王国最難関と謳いながら、その実態はああいう腕に覚えのあるバカが集まる場所ってことだろ」


 ほとんどの生徒が壇上からの挑発に目を吊り上げて激昂する中、他にもその様子を冷静に見つめる生徒の姿がちらほら見受けられた。



 ある生徒は、スラリと伸びた脚を組みながら大あくびをしていた。


「あ~、ったく、さっさと終われっつーの。アタシは昔からこういうクッソ茶番は苦手なんだよな」


「ちょっと姉さん。そんなことよりも、そんな短いスカートで足組んだら下着が見えちゃうって!」



 また、ある生徒は身の回りの狭い範囲にフラスコやら薄紙の上に怪しげな粉末を配置して、何やらブツブツ言いながら調合をしていた。


「むむむ……もう少しで新薬が完成しそうなのに、配合割合が難しいのですよ……キャッ!」【ボンッ】


 小さな爆発が起こり、ボヤが起こりそうなところを、その少女は範囲を絞った水魔法で手際よく消火していた。



 さらに少し離れたところでは、二人組の少女が周りが大騒ぎの中、興奮を抑えられずにいる様子が。


すいッ! これよこれ。アチシはこういう退屈しない日常を待ってたのじゃよ」


「もし、ジュナ。ひとまず落ち着いてくださいまし。ううぅ、こんなに多くの人の中で、わたくしは本当にやっていけるのか、早くも自信がなくなってきたのです」



 さらにはひと際異彩を放つ竜人族ドラゴニュートの少年も。


「んだあ、あのクソブタ野郎は? 次会ったらさらってぶち殺すか」



 そして、


「……」

「……ククッ」



 他にも一部の生徒は冷静にその光景を眺めていた。

 そして慌てる職員たちの中にあって、微笑を浮かべる一人の女性の姿が見られた。


 それは、このレイアガーデンの若き学園長。


 学園長は妙齢の女性であった。

 9年前、史上三人目となる死神の加護を獲得した伝説に残る才女リビングレジェンド、その人である。



「あわわわ……学園長。いかがなさいますか?」


「フフッ……面白いじゃない。新入生同士で勝手に盛り上がってくれるなら、私の話なんていらないんじゃなくて」


「そんな。プログラムがめちゃめちゃになりますよ」


「いいのよ。しばらくは自由にやらせてみようじゃない。今年の入学生化け物たちは一味違うって言うし、楽しみね」


「学園長ぉ……」



 結局、そのあとすぐに生徒指導の教師が登壇して、リーゼントの少年は無理やり降壇させられていた。

 その間も、少年は中指を立てては新入生たちに吼えまくっていた。

 

 騒乱が収まらないまま、入学式のプログラムは進んでいく。



 学園長・副学園長・学部長等紹介のあと、「学園長祝辞」の言葉が司会から伝えられる。


 だが、学園長が登壇しても生徒たちはいまだ喧騒を撒き散らしていた。


 登壇した学園長は視界に全ての入学生を映すと、開口一番、高らかにその艶やかな声色を響かせた。



「諸君、ようこそ。レイアガーデンアカデミーへ」


 しかし、その声は喧騒にかき消される。

 学園長は涼しい笑みを口元に蓄えたまま、生徒を壇上から見やる。



「そこ、静かにおし!」


 と声を発すると同時に、ひと睨みしただけで紫紺の瞳から魔法が放たれた。


【サクッ】と女生徒の額に貫通魔法が直撃。

 生徒はそのまま白目を剥いて後頭部から床板に盛大にひっくり返った。



「きゃああああああああ!」

「学園長に殺されたあああ!」


 突然の出来事に恐慌状態に陥る生徒たち。

 しかし、学園長はやれやれと言った表情で、言葉を続ける。



「くくく……殺しゃしないよ。その生徒は気絶しているだけさね。それに、アタシが殺したって面白くもなんともないだろう? 殺し合いをするのは私じゃない。アンタたちだよ、新入生諸君」


 生徒の誰もが学園長が放つ禍々しい妖気を感じていた。


 ざわめきの震源地であった生徒たちが一斉に口を結び、緊張感が大聖堂の中へと伝播する。


 いつの間にか、大聖堂の中にいる全生徒の誰もが学園長から目を離せずにいた。




>>次回は「死の祝辞」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


レイアガーデンに限らず、この世界は様々な人種によって構成されているよ。


ヒューマンが一番割合としては多いけど、西のモンスター、東のあやかし、そして世界各国に点在する獣人、森に住むエルフ、岩山を根城にする巨人族、そして今回登場したオークなどのモンスターまで、多種多様な種族がひしめき合ってるんだ。


ちなみに騎士魔法学園アカデミーには人型で入試をクリアしさえすれば誰でもどんな種族でも入ることができる。モンスターの姿のままじゃ学園生活に色々と支障をきたすからね。


だから、モンスターや妖でも変化メタモルフォーゼなどのスキルを所有していれば人型に変化できるから、生徒の中にはそれらの種族も混じっていたりするみたいだよ。


あと、一応、身長3m以内って決まりが存在するんだって。

だから、大型の種族は変化メタモルフォーゼのような大きさを変えることができる変身スキルは必須みたい。


――――――――――――

★作者(月本)の心の叫び


第二話をお読みいただきありがとうございます!

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