第27話 ナンバーズ

「リューヤ? 誰そいつ? え、お前ら知ってんのか?」


 バロバスの発言を聞いてから急に様子がおかしくなった両隣の二人に気づき、ギルは交互に視線を向けた。



「知ってるっつーか、逆に何でオメーは知らねーんだヨ!?」


 ブルートは思わず立ち上がって、逆に問い返す。



「はぁ? 普通知らねーだろ。あ、もしかして同じクラスとか?」


「全然ちげーヨ! B組のリューヤ。たぶんだけど、ありゃもう――」


 ブルートがそこまで言うと、バロバスがその後を続ける。



「あぁ、リューヤがB組の今のトップだ。アイツは入学二日でB組をシメたと言っていた。実際に媚びへつらう取り巻きも多い」


「ふむ、やはりそうか。やたらとB組だけ動きがおかしいとは思っていたが、まさかこんなに早く動いているヤツがいるとはな」


 ロビンの言葉もどこか重々しい。

 夕暮れの冷たい風と静けさが辺りを包み、一瞬の静寂が訪れる。



「へー、何かヤバそうなヤツってことだよな? いいじゃんいいじゃん。そういう話嫌いじゃないぜ」


 へらっと笑う緊張感のないギルに、立ったままのブルートは地団駄を踏んで怒りを露わにした。



「だーッ! テメーはヘラヘラしてんじゃねぇヨ! オメーがこのガッコでマジでトップ取ろうと思ってんなら確実にヤることになるヤツなんだよ、リューヤってのは!」


「おっ、急にどーした? 入学式で盛大なハッタリをぶちカマしたくせに俺に説教ってか?」


「ッ!? それはオレにだって色々考えがあったんだって言ってんだろうが! 最初はハッタリでも在学3年の間にのし上がっていくプランだったのに、よりにもよって最初の相手がテメーだったからじゃねぇか!」


「いや、完全にお前から喧嘩売ってきた気がするんだけど」


「だーッ! もうそれは一旦どっかに置いとけ。今はリューヤのことだろうが」


 自分で地雷を踏んだブルートは無理やり軌道修正を図った。

 しかし、意外と素直なギルはその意見に普通に傾倒する。



「確かにそうだな。ブルート、んじゃ今度はオメーが知ってることを教えろよ」


「……前に言ったよナ。オリャーこのガッコに入るにあたってマル秘メモを用意してたって」


「あぁ、そんなこと言ってたな」


「覚えてねーかもだけど、オリャその時にもリューヤの情報はオメーに伝えてたゼ。まさか、いきなりB組をシメちまってるとまでは思ってなかったけどヨ」


 言いながら学ランのポケットに手を突っ込むと、ブルートはマル秘メモを取り出した。


 大した興味を示さないギルと対照的に、ロビンは食い気味に飛びついた。



「それがうぬのマル秘メモか? よし、我が情報を精査してやろう。さ、こっちへ寄こすがいい」


「はぁ、何でだヨ? 嫌に決まってんだろ」


「そう言うな。悪いようにはせんぞ」


「あー、うっせぇヨ。今から話してやろうってんだから別にいーだろが」


 ちぇー、と口を尖らせてロビンが乗り出し気味だったその身を戻す。

 三人が大人しくなったところを確認すると、一度咳ばらいをしてブルートは話を続ける。



竜人族ドラゴニュートのリューヤは中等部の卒業年に急に名が知られるようになった野郎でヨ。それまでどこで何をしていたのかってのは一切の謎に包まれてんだ。


 まぁとにかく性格が歪んでて、特に嗜虐的な性格で近隣のエリアでは相当有名だったらしい。だけど、名が知れ初めたのが割と最近だから、離れた地域のヤツは知らなくても無理はねーかもナ」


「んじゃ別に俺が知らなくても無理ねーじゃんか」


 珍しくギルがもっともなことを言うが、ブルートはその言葉を一蹴する。



「いや、実際に一度でも実物を見たら気になって仕方ないくらいの存在感があるゼ。さらにアイツは自分でナンバーズであることまで公言してっからナ。ほとんどの生徒はその情報だけで危険度特Aランクの要注意人物として警戒してるっての」


「ん、ちょっと待て。そいつの危険度がどうのこうのの前に、ナンバーズって何だ?」


「は、マジか? オメーはホントに何も知んねーんだナ。ったく、いいか、ナンバーズってのは学年トップ10の生徒の総称だ。つまり、リューヤは学年の10位以内。てか、アイツが10位/400人なんだヨ」


 おおー、と言いながら拍手をするギルと、押し黙るバロバス。

 その様子に気づいたブルートはバロバスにチクリと言葉を向けた。



「どうした? さっきから随分大人しいじゃねぇか、バロバスさんヨ。まだ凹んでんのか?」


「……いや違う。ただ、オマエはリューヤの恐ろしいところが全然わかってないと思っただけだ」


「ンだと!? テメー、俺のマル秘メモをバカにしてンか?」


「……じゃあ聞く。オマエはリューヤと向かい合って言葉を交わしたことがあるのか?」


「へ? あ、いや、それはねーけど……」


「……アイツは恐ろしい男だ。さっきオマエが言っていた嗜虐的ってのはその通りだが、それよりもヤツの欺瞞に満ちた存在そのものに、俺は底知れぬ恐怖を感じた」


 バロバスは再び額に脂汗を浮かべていた。

 そしてさっきと同じように、拳で自分のこめかみを殴ろうとするが、その手をギルがバシッと掴んで制止する。



「やめとけ。自傷行為は癖になるだけじゃなくて、ほっとけばどんどんエスカレートしていくぞ。そんなにトラウマを払拭したかったら、そんなその場しのぎじゃなくて、病院行くかテメーで克服するかするしかねーだろ」


「ギルガメス……」


「おいおい、デカい図体してそんな目で見るんじゃねぇよ、気持ちわりぃな。それより、お前の持ってる情報をもっと教えてくれよ。どうもブルートのマル秘メモだけじゃ不安だし」


「ンだとぉ!」


 こうして、校庭の片隅でギルたちは遅くまで情報交換に努めるのだった。


 そしてもちろんその様子は光の精霊ウィル・オー・ウィスプによって、デュエル開始前からの全てが映像に収められていた。



 翌日。

 その映像を見たリューヤは、新しい玩具おもちゃを見つけた子供のように、細い目を吊り上げて喜ぶのだった。




>>次回は「悪意、始動」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


ナンバーズは学年1位から10位までの上位トップ10の生徒のことを指すよ。


ギルたち1年生は学年10クラスと言うこともあって、各クラスにナンバーズが1人ずつ配置されているんだ。


今後、このナンバーズが学年全体の順位変動に大きな影響を及ぼしていくはずだから注目してみてね。

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