第13話 ただの幼馴染

「ちょっと姉さん! いつまでそんなヤツと話してるんだよ。もう決闘デュエルのルールが決定する寸前だったのに」


 子供の頃の思い出に浸っていたミーナは、現実に引き戻してきたビンスの棘のある言葉に苛立ちを覚えた。


 ビンスを鋭く睨みつけると、その背後に武装した多くの生徒たちが目に入った。

 すぐにミーナは眉根を寄せて、不快感を露わにする。



「ちょっと、ルールって何のことよ? まさかアンタ、ここにいる全員でギルくんを……」


「は、はぁ? ま、まさか。そ、そんなことある訳ないじゃないか」


「ならいいけど。もしそんな卑怯な真似をしたらアンタとは一生口を利かないし、ラバン家からも追い出してやるんだから」


「わ、わかった。僕だって最初からコイツとは1対1の勝負をするつもりだったし」


 姉のミーナには全く頭が上がらないのは昔から変わっていない。

 ギルは目をつむり、昔を懐かしんで、うんうんと頷いていた。



「お! てことはタイマンか?」


 ブルートが嬉しそうに肩を揺らしながら会話に入ってきたカットイン



「タイマン? 何かオメー、前にもそんなこと言ってたっけか?」とギル。


「おうよ。東の国じゃ、一対一のケンカのことをタイマンって言うんだよ」


 鼻息荒く、どんどん言葉にも熱を帯びてくるのだが、ギルは冷めた目でブルートの様子を見つめていた。



「ふーん、なんかクソだせーな」


「なっ、何だとこの野郎!」


「なに? お前も混ざりたいの?」


「いや、俺は遠慮しておくけど……」


 ブルートの目が泳ぐ。

 どうやらいまだにギルとの決闘デュエルが相当堪えているようだ。

 ギルはブルートを見てひひっと笑っていた。


 自分が蚊帳の外にいると気が付いたのか、ビンスが目を吊り上げてこちらを睨んでいる。



「キサマらぁ、さっきからなにをごちゃごちゃ言ってんだ? マジで死にてぇのか?」


「おいおい、コイツやる気満々じゃん。口調まで変わってきてンゼ」


「だな」


 ビンスの方を向き直すとギルはポケットから右手を出し、手招きする。



「ビンスぅ。んじゃサシでやるか。どれくらい賭ける?」


「もちろんエンブレム全てオールインだ。あと、俺が勝ったら貴様はお姉ちゃんと二度と関わるな」


「おねーちゃん? 飲み屋にいる女の人のこと?」


「ちげーよ! 俺のおねーちゃん! そこにいるヴィルヘルミーナ・ラバンだよ!」


「ミナちゃん? てか、お前ってさっきまでミナちゃんのこと『姉さん』って言ってなかったっけ?」


「はぁ? テメーごとき、ど貧乏のクソ雑魚庶民が誰に向かって『お前』とか言ってんだ! マジで殺すぞ……」


 ビンスは完全に自分を見失っていた。

 眼が血走り、血管がこめかみに浮き上がっている。



「おいおい、コイツ何だヨ? もしかしてめちゃくちゃあぶねーヤツ?」


「んにゃ、ただの幼馴染だ」


「幼馴染? なんだオメーら、昔からの知り合いだったのか?」


「ん~、まぁな」


 すぐに蚊帳の外に出されるビンス。

 もちろん即キレる。



「だからカス同士でごちゃごちゃやってんじゃねーよ! デュエルの条件、認めるんだよなあ?」


「あー、俺が負けたらミナちゃんと関わるなってヤツだよな。まぁいいぜ。その代わり俺からも条件出すけど」


「何だと? キサマ、庶民の貧乏人のくせに貴族の俺様に向かってナメた真似を……」


「あっそ、じゃあ別にやめたって――」


「わかったわかった! どうせ俺が勝つんだ。何でも言ってみろ」


 面倒くさそうに言うギルを横目に、ブルートが「あーあ、フラグがビンビンじゃんヨ……」と、ぼそりとつぶやく。



「んーと、じゃあ、俺が勝ったらお前、えーっとあれだ、俺の舎弟しゃていになれ」


「はぁ? しゃてい? なんだそりゃ」


「ブルート、なんだっけ? この間オメーが言ってたじゃん」


 ギルが横を向いて尋ねると、ブルートは腕を組み、鼻を鳴らして誇らしげに語った。



「よく覚えておけオメーら。東の国では、家来のことを舎弟って言うんだヨ」


「おー、そうだった、それそれ。俺の家来。どうだ? 受けるか?」


「受けるわけねーだろ! 殺すぞ!!」


「りょーかい。じゃあ、デュエル不成立ってことで」


「ぐぬぬぬ……、やってやるよ! 俺を完全に怒らたことを一生後悔させてやるぜ! ギル! テメーは確実にぶち殺す!」


 ビンスは興奮のあまり呼吸が荒くなっていた。

 王国内でも名門と名高いラバン家である彼はあまりにもプライドが高かったのだ。



「んじゃデュエル成立だ。そしたら立ち合いは誰がやる?」


「アタシがやるよ」


「ミナちゃんが?」


「これはアタシを奪い合うデュエルってことでしょ? ならアタシがやらないと」


 ミーナがギルとビンスの間に割って入り、両手を伸ばして二人の距離を遠ざける。その目は真剣そのものである。


 場の空気に耐えられなくなったのか、ブルートがギルにこそっと耳打ち。



「……おいおい、なんか盛大に勘違いしているなアネさん」


「それを言ってやるな。スゲーいい子なんだぜ。ちょっと変わってるけど」


 そう言ってからミーナの方を見ると、すでに手を天に向かって突き出している。いよいよ始まるようだ。



「神の名の元に代理人ヴィルヘルミーナ・アルヴェスタ・ラバンがこのデュエルを公正に裁く! アルスターダ アーチ バスラット!」


――――――――

【デュエルインフォメーション】


陰影の魔法剣士シャドウマージファイター〉ヴィンセント・ラバン(1年ランキング93位)

         VS

〈リア獣〉ギルガメス・オルティア(1年ランキング400位)


ステージ:レイアガーデンテラス(屋上)


勝利報酬:褒章全掛け《オールイン》※

※この場合、ギル(ランキングが下位)の手持ちの2枚が上限となる


★ビンス勝利の場合:ギルガメス・オルティアはヴィルヘルミーナ・アルヴェスタ・ラバンに今後一切関わることを禁ず

★ギル勝利の場合:ヴィンセント・アルヴェスタ・ラバンはギルガメス・オルティアの舎弟(家来)になる


戦闘条件:戦闘中の魔法使用禁止

――――――――


 ミーナとI組の20名。


 そして忘れられがちだが、十字架に磔にされたままのノブオとシンペーが見守る中、デュエルが幕を開ける。




>>次回は「最弱だったキミが」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


決闘デュエルごとに互いが合意すれば条件を設定することができるんだ。


条件は勝敗に大きな影響を及ぼすはずだから、今後もデュエルにどんな条件が設けられるかには要注目だね。


ちなみに、デュエルに条件等が付与されている場合は、デュエル・インフォメーションが流れるみたい。



――――――――――――

☆作者(月本)の心の叫び


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