第23話 使い魔の競演

 それからは特に何事もなく放課後がやってきた。


 J組の生徒たちの視線がチラチラと向く中、ギルはガラッと椅子を引き、頭の後ろで手を組んで、いつもと変わらぬ様子で教室を出て行く。


 教室に残った生徒たちは当然ギルVSバロバスのデュエル見たさにその後を追おうとする。


 が、教室の前のドアにブルートが、後ろのドアにはロビンが立ちふさがり、彼らの行く手を阻んだ。



「邪魔なんだよ、そこをどけって」


 進行を阻まれた生徒がブルートに食って掛かる。



「はぁ? どこにいようがオレ様の勝手だろうが。それに大体テメーら揃いも揃って気にいらねンだヨ。冷やかしなら間に合ってンぜ」


「んだと? この人数相手にヤろうってのか?」


「……へ?」


 ブルートの前方にはクラスのおよそ半数が人だかりを形成。

 今にも襲い掛からんとにじり寄る。



「ま、待て待て! オリャこう見えて意外と平和主義者と言うか……」


 ブルートはイキっていた割には日和るのがとにかく早かった。


 相手の能力もよく知らないで下手に突っかかるとロクなことがないと言う経験を入学早々に味わった彼は、下手に返り討ちにあってクラス内の序列がこれ以上下がることだけは阻止したかったのだ。


 そもそもすでにかなり舐められている節はあったのだが。



「おい、オーク野郎。ビビってんならすぐにそこをどけ。そしたらボコるのだけは勘弁してやってもいいぜ」


 人だかりの先頭の生徒が見下した笑みを浮かべて挑発を重ねる。



「…………」


 さすがにここまで舐められままでは引き下がれないと、ブルートが覚悟を決めた時。後ろから肩をポンと叩かれた。



「やぁ、何やってんの? ギャラリーは多い方が燃えるじゃ~ん。いいよいいよ。観たいヤツは全員ボ……俺と一緒にいこー!」


「ギル!?」


 振り向くとそこにはギルがいた。

 驚き立ち尽くすブルートに、すぐにギルはこそっと耳打ちする。


 それを聞いたブルートは……



「ま、まぁ、オメーがそう言うならオリャ構わねーヨ。んじゃテメーらも勝手にしやがれ」


 そう言うとドアを廊下側に抜けて、生徒たちの進行を促した。



「ったく、ウゼーな。だったら最初からそうすりゃいいんだよ。――あー、お前ギルガメスだっけ? 俺たちは別にどっちの応援って訳でもねーけど、デュエルを見ればおおよその戦闘力はわかるからな。今後のためにも、ここにいる全員で見物させてもらうぜ」


「うん、わかった。もちろんいいよ。じゃあボク……俺についてきて」


 ギル? が廊下に出て手招きすると、イキった生徒たちがその後に続いていく。


 相変わらずみな、好き勝手に勝敗予想などをしては盛り上がっている様子で、そんな光景を教室の後ろのドアに寄りかかりながら見ていたロビンは必死で笑いを堪えるのだった。


 そして――



「おい、どこだよここ? ホントにこんなところでデュエルが始まるってのか?」


 ギル? が案内した先は、体育館の用具室だった。

 ぞろぞろついてきた生徒20名ほどが入るとたちまち中はいっぱいになる。


 全員が中に入ったことを確認すると、外から【ガチャ】と鍵のかかる音がした。



「プクク……変化メタモルフォーゼッ!」【ボンッ】


 ギルの姿に変化していたクロベエが術を解いた。

 すぐにふわりと宙に浮き、唖然とする眼下の生徒たちを一瞥する。



「バーカバーカ、もういっちょバーカ! そうだよ。こんなところでデュエルができる訳ないじゃん! 大体キミらは、自分の手を汚さないで他の生徒の能力をタダで知ろうなんて、ちょっと虫が良すぎるんじゃない? あまりにもやってることがダサすぎて、すでに周りからモブ以下のカス認定されてるってことに自分らで気づかないのかなぁ?」


 クロベエに言われたい放題の生徒たちはもちろん瞬時にぶちギレる。



「て、テメー! クソ猫! 確かギルガメスの……」


「そう、ボクはギルの使い魔、クロベエ。あ、キミたちはモブカスだし、別に名乗らなくてもいいよ」


「てンめえ! 使い魔の分際で舐めてんじゃねーぞ!」


「うわー、ザコっぽいセリフ。こりゃちょっとお仕置きの必要があるみたいだね」


「……んだと?」


「いいよ、マクガフ。やっちゃって~」


 クロベエが声を掛けた方に視線を向けると、用具室の天井に黒いドロドロの文字で『お ま か せ』と書かれているのが目に入る。



「ま、まさか……そいつは。嘘だろ? 嘘だと言ってくれえええええ!」


「そのまさかだよ! マクガフ、GOーーーッ!」


 クロベエの合図とともに、天井に張り付いていたゾンビスライムのマクガフがドロドロの濁流となり、用具室を埋め尽くす。



「うわあああああ! くっせえええええ!」

「ぐぼぉっ! 死ぬうううう!」

「キッモーーーッ!」

「もうやめてえ! 助けてえええええ!」

「ごぼごぼごぼ……」


 生徒たちが涙目で悲鳴を上げる様子を見て、クロベエは宙で腹を抱えて爆笑していた。


 しばらく、用具室の中から絶叫とも悲鳴とも取れる阿鼻叫喚、そしてやたらと甲高い笑い声が鳴り止むことはなかったという。




>>次回は「フラットランド」と言うお話です!

――――――――――――

【ファンタスティックロワイヤル】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


クロベエは隠密活動が得意なんだ。

持っている能力アビリティも「隠密、索敵、変化、浮遊」と、隠密活動に適したものが揃っているみたいだよ。


その中でも今回は姿形を思いのままに変化させる、「変化メタモルフォーゼ」のアビリティが大活躍だったね。



もう一つ、この世界では使役者の能力を超える使い魔は召喚することが出来ないと言われているんだ。中には例外もあるみたいだけど。


あとは、自分の得意分野とか同属性の使い魔を呼び出すことが多いみたい。

もちろんその方がより強力な使い魔を呼び出しやすいからってことだからだね。


リッチのロビンとゾンビスライムのマクガフもそういう関係性。

こういう組み合わせはわかりやすくていいよね。



――――――――――――

★作者(月本)の心の叫び


おしゃべりなクロベエと、寡黙?なマクガフは対比があって組ませやすいかも。

このコンビはまたどこかで活躍しそうな気がします(^^ゞ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る