第24話 フラットランド

 クロベエとマクガフがJ組のモブたちをドロドロの中に沈めていた頃。


 バロバスの果たし状に指定されていたデュエルのバトルステージに関係者は集まっていた。


 周囲を結界に囲まれたアカデミー内にある特殊デュエル会場。

 ステージNo.01〈平地フラットランド〉である。


 その名の通り、単なる校庭の平地部分の一角。


 だが、特殊デュエル会場においては、事前に使用申請をすることで特殊結界を巡らせ、外からは見えないようにするだけでなく、デュエル開始直後に内側から見える半透明の赤い壁が生成される造りになっていた。


 それは、デュエルが終わるまで外には出られないことを意味する。

 そのためか、互いのLPライフポイントを奪い合うような完全決着ルールの際に用いられることも多い。


 だが、デュエルは両者の合意があれば突発的に始められるため(基本立ち合いは必要だが)、わざわざ使用申請が必要なこの会場を使う生徒は少なかった。



「お前ってば、本当に律義なヤツだよな。それにこんな有利不利が起こらない何も特徴がないステージを用意するなんて、正々堂々と決着つけようって言ってるようなもんじゃねぇか。ますますお前ってヤツがわからなくなってきたんだけど」


 会場内にはすでに相対しているギル、バロバス。

 少し離れてブルート、そしてロビンの姿が。

 バロバス側には誰一人として仲間らしき者の姿はない。



「戦いが正々堂々なのは当然だ。他に確認することがなければ始めるぞ」


「ちょっと待て。お前の側には誰もいないんだけどいいのか?」


「構わない。そこにいる二人の中から、立ち合いを決めてくれ」


 必要最低限の言葉が続く。

 まるでバロバスの考えていることがわからない。

 およそ十代半ばのアカデミー生らしくない言動に振る舞い。


 そんなバロバスにギルは興味をそそられる。

 そしてその興味はこんな発言へと繋がっていった。



「んじゃ立ち合いはブルート、お前がやってくれ」


「お、オレぇ!?」


「こういうのは因縁があるヤツがやった方がエモいだろうが」


「え、エメーのか……?」


「たぶんな――で、バロバス。オメーにも一つ確認してーんだけど」


「なんだ?」


「このデュエル。俺が勝ったらお前が知ってることを洗いざらい吐いてもらうぜ」


 それは、デュエルの勝利報酬。

 バロバス側からは果たし状に書かれていた以下の条文のみだった。


・バロバス勝利時、敗者ギルの次のデュエル対戦相手を指名することができる



「……なぜだ?」


「だってさ、お前って何か決定的におかしいもんよ。噂とのギャップがあり過ぎるって言うか。まぁ、単なる俺の興味だけど別に構わねーだろ?」


「……構わない」


 バロバスの言葉にギルの口角が思わずニッと上がる。

 一段階気合いが乗った、そんな表情だった。


 思わず一歩前に身を乗り出して、巨漢のバロバス相手に下から覗き込む。



「んじゃ最後にエンブレムだけど、俺はもちろん全額ベットオールインするぜ。バロバス、お前は?」


「同じくだ」


「おし、じゃあ始めようぜ。頼むわ、ブルート」


 その声を受けたブルートはギルとバロバスの横へ。

 試合の審判のような位置に立つと、すっと右手を天に掲げた。



(すまねぇ、ギル。結局オレはバロバスの強さの秘密を解き明かすことができなかった。やっぱりオレは役立たずだよな……)


 俯き黙りこくってしまうブルート。

 それを見て、ギルは眉根を寄せて首を傾げる。



「なぁに黙ってんだよ。早く始めろっての」


「いや、あのヨ……」


 このまま始めてしまってもいいのか。

 何か伝えた方がいいのか。

 思考がまるでまとまらない。



「あー、何だか知らねーけど、オメーは余計な心配してんじゃねーよ。俺は別に負けることなんて怖くねーし。大体、これまでだって負けっぱなしの人生を送ってきたんだ。だけどよ、その度にいちいち凹んでてもしょーがねぇじゃん。だから、お前もいちいちビクつくな。見届けてくれりゃそれでいいからよ」


 ギルの告白を受けて、ブルートは意外な一面に驚きを受ける。



(ギルが負けっぱなしの人生だと? あんなに強ぇのに?)


 驚きを隠せないブルートを見て、ロビンも言葉を重ねた。



「確かに負けがないまま強くなった者など聞いたことがないな。それにこの先もこのアカデミーにいる限りは戦いは続く。ブルートよ、うぬは自分にできることはやったのだ。ならばギルの言う通り、あとは見守ってやればいい」


 二人の言葉を受けて、ブルートの心のもやに晴れ間が覗く。

 一度深く深呼吸をすると、掲げた右手に力を込めた。



「……おぅ! じゃあ、あとはテメーに任せたぜ、ギル。

 デュエル! アルスターダ アーチ バスラット!」


 ブルートがその手を正面に振り下ろすと同時に、バロバスの剛腕が唸りをあげてギルに襲い掛かる。


 すぐに2連続でバック転を決めて、距離を取るギル。


 戦いの行く末をブルートは祈るような思いで見つめるのだった。



▷▶▷

【デュエルインフォメーション】


刺青超獣タトゥービースト〉バルステン・ベルセリバス(1年ランキング66位)

         VS

〈リア獣〉ギルガメス・オルティア(1年ランキング400位)


ステージ:〈No.01〉フラットランド


勝利報酬:褒章全掛け《オールイン》※

※この場合、ギル(ランキングが下位)の手持ちの4枚が上限となる


★バロバス勝利の場合:敗者ギルの次のデュエル対戦相手を強制的に指名することができる

★ギル勝利の場合:バロバスはギルからの質問には全て答える


戦闘条件:指定無し

▷▶▷




>>次回は「刻まれた呪印」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


特殊デュエル会場は校内の至る所にあって、事前申請さえすれば関係者以外の立ち入りが不可となる結界が張られたステージで戦うことができるんだ。


だけど、本編でも書いてあったように、デュエルは突発的に起こることが多いから、この制度はあまり使われていないみたい。


それでも、たまに起こるランキング戦(上位ランカー同士の対戦)だったり、他には決闘者デュエリストが手の内を他の人に知られたくないような場合に使われることがあったりするよ。


ステージも色々用意されているみたいで、魔力2倍とか属性無効、トラップだらけのステージなど、どちらか一方の生徒に有利になるようなところも多いから、どのステージを選ぶかによって戦い方も変わってきそうだね。


ちなみに一番人気は、ランダムステージ(どのステージになるか始まってみるまで分からない)なんだって。

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