第46話 魔法陣
直線的な戦い方のギルに対して曲線的なリューヤ。
ことごとく攻撃が空振る。
めちゃくちゃ戦いづれえな、とはギルの本音だった。
ギルのような
突っ込んでくる牛をひらりと交わす闘牛士の如く、まさにおあつらえ向きの相手だと言えた。
「チッ、性格も存在も戦い方まで鬱陶しい野郎だな」
視界の中心に捉えているリューヤ。
そしてギルの周囲を取り囲んでいるリューヤの放ったカード。
注意を払わなければならない対象が多いのもそう感じる要因か。
「もう威勢が消えちまったか? 口ほどにもねえカスかよ」
リューヤは余裕すら感じさせる笑みを浮かべてギルを煽る。
いちいち挑発に乗るようなギルでは――
「んだとぉ、この青トカゲ野郎がよぉおお!」
あった。
またも一直線にリューヤに飛びかかっていく。
「マジで頭の悪い野郎だな。オラぁッ」
リューヤはカードで一瞬壁を作ると、次の瞬間にはカードと共にその場から姿を消す。
その時、リューヤは
しかし、その前の仕込みが完璧であれば、ギルや観客には消えたように見えるのだ。
リューヤは戦いの中で相手の心理や状況を
「ケッ、バカが」
空中からギルを見下ろし、その手に込めたのは中級の火魔法。
狙いを定め、魔法を打ち下ろそうとした。その時。
【ボワアッ】と、目の前が突然炎に包まれる。
「グハァ……っ、何だ? 何が起こった?」
炎を払い除け、地上を見るとリューヤに向かって手をかざし、口元に笑みを浮かべるギルの姿があった。
「そんなこったろうと思ったぜ。お前は姿を消すアビリティ、
「ぐっ……」
そのまま大聖堂の床に着地すると、リューヤは目の前のギルを見据えた。
(コイツ、戦闘慣れしてやがる)
今のところは一進一退で抜け出せない。
先手は取れるものの、直後にすぐに対応されてしまう。
完全に格下だと思っていた相手に思わぬ苦戦を強いられる。
リューヤは戦い自体に固執したり、また楽しんだりするタイプではなかった。一秒でも早く一方的な蹂躙をして、大量の
戦闘センスに恵まれたリューヤではあったが、性格は戦闘向きと言うより、一方的な暴力や拷問にしか興味を示さない。
一刻も早くこの戦いを終わらせて、その状況を作り出すべく、リューヤは次の手を放つ。
「オラあッ!」
ギルがまたもや正面から突っ込んでくる。
リューヤは咄嗟に宙に散開させたカードでガードを張る。
が、ギルの手に纏った炎によってカードは一瞬で灰となり、リューヤの頬を拳が掠める。
「ちぃっ! しつけえンだよ!」
リューヤはその場にしゃがみ込み、床に手をつく。
すると、その手を中心に床に巨大な魔法陣が一気に展開。
ギルの炎を消し去り、さらにギルだけに大きな重力が圧し掛かる。
「あれ、何だコレ?」
「クク……オレの魔法陣だ。これは対象敵のバフ効果を打ち消してくれんだぜ。この中じゃテメーの炎も体術バフも逆効果ってな」
「はぁ? お前、いつの間に魔法陣なんて描いたんだよ」
「そんなことはテメーの知ったこっちゃねぇ!」
声をあげたリューヤが左手を掲げて力を込めると、その腕は青く硬い鱗で覆われていき、みるみる巨大化。
左手の肘から先がドラゴンのような爪を伴ったものへと変化を遂げていた。半竜化である。
「へッ、なんだそりゃ。これでまた一歩、トカゲに近づけてよかったじゃねぇか、青トカゲくん」
「オレにナメた口を利けるのもここまでだぜ」
リューヤの巨大爪がギルに襲い掛かる。
そのスピードはいつものギルならば難なく捌けるレベル。
しかし、魔法陣の効果が発動しており、ギルのバフ効果を消し去っただけではなく、さらに重力を重ねられたことが戦況を一変させていた。
翼をもがれた鳥の如く、あれだけ素早かった動きは見る影もない。
初撃、二撃と何とか躱すが、三度目の攻撃は間に合わない。
「ぐぅッ」
両腕を交差して振り下ろされるリューヤの竜爪を下からガッチリと受け止める。
だが、その膂力はドラゴンそのもの。
耐える身体中の骨が軋む。
ギルは支えることを諦めて、床に転がるようにその場を脱出。
振り下ろされた爪が大聖堂の床を大きく抉っていた。
「ハァハァハァ……」
「何だよ? ちっとだけオレがやる気出してみりゃあこんなモンか? 口ほどにもねえってのは、まさにテメーのためにあるような言葉だぜ」
「……あの魔法陣が発現してから急におかしくなったぞ。ったく、マジでやりづれえ」
リューヤが繰り出すトリックに翻弄されるギル。
しかし、離れた場所からその様子を見ている実力者たちはとうにカラクリを見破っていたのであった。
>>次回予告「一人一殺」
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