第47話 一人一殺

「第三者にギルの有利属性を打ち消す魔法陣を敷かせて、さらに複数人で今も魔力を注ぎ込んでいます。……許せません」


 ラヴィアンはつなぎ服の袖部分を腰でぎゅっと縛ると、怒りを滲ませた。



「ふむ、これはルール的にはどうなのじゃ? アチシはまだデュエルと言うものをしたことがなくての。そこが今一つわかっておらんのじゃ」


 ジュナが腕組みをしながら渋い表情を浮かべている。



「こんなの反則に決まってるじゃない! 早く止めないとギルくんが危ないわ」


 ミーナは今にも飛び出していきそうだ。



「ギルさま……」


 すいは胸の前で両手を絡めて不安そうな顔つき。



「うぬら、聞け。術者がわかったぞ」


 ロビンが杖を振り上げてギルの陣営に声を掛ける。



「本当ですか?」とラヴィアン。


「もちろんだ。今から我が術者の身体にこの【☠】マークを当ててゆくから、各自が標的を確認してくれ」


 ロビンは杖の髑髏を指でつんと指してから、周囲に反円を描くように杖を振るう。


 ブルートを含めた5人は杖から放たれた髑髏マークを視線で追っていく。


 リューヤ側の陣営に2人。

 大聖堂に設置された梯子を登った場所にある2階の狭い通路キャットウォークに1人。そしてその後ろ、観客席アリーナに2人。



「全員確認できました。ロビンさん、彼らが術者なんですね?」


 ラヴィアンが尋ねると、ロビンは紫黒しこくの怪しい瞳を向けて頷いた。



「我に敬称は不要、ロビンでよい。そしてハーフエルフの少女、ラヴィアンと言ったか。ほぅ、うぬは……風の加護を受けておるのか。ならば――」


 意外なことに、仕切りだしたのはロビン。

 ラヴィアンに始まり、ミーナ、ジュナ、翠にまで次々と即興で作戦を伝えていくのであった。



「おい、ロビン。何がどうなってンだ? 何かやるってンならオレも混ぜろヤ」


 疎外感をひしひしと感じていたブルートが痺れを切らしてロビンに詰め寄る。



「ここにいろ。うぬでは力不足だ」


(ガーーーン!!)


 ショックを受けたブルートはその場に膝から崩れ落ちた。

 しかし、女子5人はもちろんブルートに構ってなんていられない。



「よいか、一人一殺。術者から魔法陣に送られている魔力の供給を我らの手で断つのだ!」


 小柄なロビンが珍しく声を張り上げた。

 号令を聞くと、ラヴィアン、ミーナ、ジュナ、そして翠はその場から散開。


 約一名を除いて、目にも止まらぬ速さで各自の標的に向かっていくのだった。





 大聖堂のアリーナでは依然としてギルの苦戦が続いていた。


 リューヤが魔法陣を発現させてから、形勢を一気に持って行かれていたのだ。


 致命傷こそ防いでいたが、ここへ来て出された竜爪りゅうそうが思いのほか強力で防戦一方の状態が続いていた。


 腕を折られては回復魔法を当て、腿を抉られては回復魔法を当てる。常に後手を踏まされるという、ギルの圧倒的な不利に陥っている。



(急ぎます! 卑怯な真似さえされなかったらギルは負けない!)


 ラヴィアンが向かっているのはキャットウォークのその奥。

 大聖堂二階席の奥で、灰色のフードを被っている、一番距離が遠い生徒の元だった。


 他の4人はラヴィアンの標的よりも距離が近かったため、すでに交戦を始めた者がいる。


 リューヤの陣営の中に紛れている2人。

 担当は、ロビンとミーナ。


 しかし、ロビンは足が遅いので、使い魔であるゾンビスライムの魔苦蛾腐マクガフの背に乗って移動。


 先に辿り着いたのはミーナであった。



「まさか、こんな近くから堂々と魔法陣に魔力を供給しているなんてね。アンタ、恥を知りなさい」


 ミーナの相手。

 青いフードを目深に被った魔導士だった。



「ちっ、もう気づかれたのか」


「そうよ。だから観念して魔力の供給を止めなさい。さもないと――」


 ミーナの言葉を聞き終えることなく、青いフードの魔導士はその場から逃走。


 短い距離の瞬間移動テレポートを繰り返しながら、ミーナをデュエルの場から引き離していく。



「あー、うっざ!」


 次の瞬間、ミーナは青いフードの魔導士の前に待ち構えていた。



「あ! な、なんで……」


「そんな規則的に移動してりゃ、次の移動地点なんて簡単に予測できるっての! って訳で成敗ッ!」


 ミーナは柄に手を掛けると、居合のように剣を抜き、二振りして【キン】と鞘に剣を戻した。



「安心しなさい、峰打ちだぜ」


 バタリと床に倒れ込む青いフードの魔導士。

 まず一人。



>>次回は「七賢人」というお話です

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