第48話 七賢人
大聖堂の2階席。
その手前のキャットウォークから身を乗り出して魔法陣に魔法を供給していたのは緑のフードを被った魔導士だった。
「もし、そこのお方」
担当は翠。
か細い声で話しかけるが、緑の魔導士は魔法陣への魔力供給に夢中で翠に気づかない。
「ねぇ、もし?」
翠はめげずに話しかけるが、声が小さく、また普段は存在感も無いために気づかれない。
「仕方がありません。ギルさまをお助けするためです。申し訳ありませんが死んでくださいませ」
翠は二本の腕をぎゅーんと伸ばすと、左右の拳で緑魔導士の顔面を左右から挟むようにぶん殴った。
「ごぶぅっ」
と短い言葉を漏らすと、身を乗り出していたキャットウォークから一階大広間に落下。
誰にやられたのかもわからずに緑魔導士、撃沈。
これで二人目。
*
同じく2階アリーナ席。
茶色のフードを被った魔導士と交戦中のジュナ。
「ほぅ、オヌシ、なかなかの魔力を持っておるようじゃな」
「む、当たり前だろう! 小生はデスアカ七賢人が一人、ウィズであるぞ」
「デスアカ七賢人? なんじゃそれは?」
「七賢人を知らぬと言うか!? 七賢人とは今年のデスアカ1年の中でも、特に魔法に優れたメンバーで構成された7人組のことだ!」
茶色の魔導士ウィズは胸を張って答えたが、ジュナには察しがついていた。
おそらく、さっき翠に2階から落とされて、大広間の端っこでピクピクと痙攣を起こしている緑の魔導士もきっと七賢人の一人なのだろうと。
「まぁおおよそは分かった。つまり、おヌシは魔力に自信があると言うのじゃな」
「七賢人なのだ、当然だろう!」
「ほぅ。なら魔法勝負じゃ」
ジュナはすぅと周囲の大気を吸い込みながら、大気に存在する様々な魔素を手の揺らぎによって自在に制御する。
魔導士ウィズは一点を見つめ、長い詠唱を唱えていた。
強力な魔法の準備であることがうかがえる。
「行くぞ!
大仰な構えから杖を振り回し、火属性上級魔法を放つウィズ。
言うだけあって、魔法スキルはかなりのものがありそうだ。
「ふむ、ならばこれでいくかの。
一方のジュナが指をパチンと鳴らして放った妖術は初歩レベルの火魔法。同レベルの術者同士であれば、威力は比にならないはずだが――
『コンコンコーン』
ジュナが放った狐火がウィズの放った炎の渦を、ひと鳴きしては喰らっていく。
食えば食うほど巨大化していき、子犬ほどの大きさだった姿はウィズの視界を覆い尽くすほどの化け物になっていた。
「ななな、なんでぇ!?」
「術者の力量が違うのじゃろ。そう気落ちせんともよい。おヌシが弱い訳ではなく、アチシが強すぎるだけなのじゃ」
「あわわわ……」
「どうするのじゃ? このまま狐火におヌシを喰らうように……」
「いやいやいや、こんなの聞いてないって! おかしいでしょ! 無理です! ゴメンなさい、降参ですッ!! もう魔力の供給もしませんからお許しくださいーーッ!!」
茶色魔導士のウィズ、戦意喪失。
これで三人目。
*
「我の前で堂々と魔法陣を展開するとはな。少々遊びが過ぎたようだ」
のそのそとゾンビスライムの
そこにいたのは――
「あなたはJ組の
「ふん、リューヤの腰巾着、
魔法職同士、その存在は互いに気に留めるところだったようだ。
「腰巾着なんて酷い言われようですね。私だって好き好んでこんなことをしている訳じゃありませんよ」
「機を伺っているとでも?」
「その通りですよ。へりくだっているフリをして、隙を見せれば寝首を掻く。デスアカならではの立派な立ち回り方だとは思いませんか?」
そばかす顔の眼鏡の奥の目がキランと光る。
一見すると純朴そうな少年に見えるのに、邪悪な眼差しだけは隠しきれていない。
「そうまで野心を語るのであれば、今すぐに魔力の供給を止めるのだ。もはやリューヤに義理立てする必要などあるまい」
「ハァ? 何を寝ぼけたことを。
「ふん、愚かな」
スケイプの周囲にはすでに
「光と闇。それなら勝つのはもちろん私だ! 大いなる精霊の力よ、我が呼声に応え、我が願いを叶えん。
先手を取ったのはスケイプ。
光の精霊が眩い光を放ちながらロビンの周囲を取り囲む。
「行け、精霊たちよ! オーバーレイ!」
スケイプの号令と共に精霊がキラキラと光を振り撒きながら縄のような形状となってロビンをあっという間に縛り上げた。
「闇を滅せよ! シャイニング!」
間髪入れずに光魔法を発動。
闇の反属性である光魔法はロビンにとっては相性最悪。
光の精霊から放たれた光の渦が、うねりながらロビンを貫いた。
「アハハハハ! 塵一つ残らないとは!
破顔して高笑いするスケイプ。
その足元には主人を失ったゾンビスライムの
>>次回は「妖術師モーリー」というお話です
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