第52話 脅迫

「時間がありません。リューヤについて知っていることを全て吐いてもらいますよ。隠したり、後で嘘だとバレたりした場合は毒薬を飲ませます」


「毒薬はもう堪忍やからな。ここまで来てワシ、嘘は吐かんて」


「……信じましょう」


 ラヴィアンの言葉に、安堵の息を漏らすモーリー。

 しかし、間髪入れずに言葉を口にしたのはロビンだった。



「さぁ、リューヤについて知っていることを語るのだ。特に知りたいのは〈竜の呪い〉について」


「りゅ、竜の呪いでっか? そんなんワシ知らんて。竜人族ドラゴニュートについてワシが知っとるのは、対象を竜化ドラゴンサベージさせる能力アビリティくらいで……」


「竜化? それは竜の呪いが発動した結果を指すもの……、つまり同義ではないのか?」


 ロビンはギルとバロバスのデュエルを思い起こす。

 あの時、確かにバロバスは竜の呪いによって体表は鱗に覆われ、ドラゴンのように尻尾まで生えていた。



「あー、そりゃちゃいまんねん。竜化ってのは……あぁそうそう、あんな感じで無機物を竜に変えてしまうおっとろしい能力アビリティのことですわ」


 モーリーが指さす方に一同の目線が走る。

 ちょうどそこは、すでに半竜と化したリューヤが、己の手の中で竜を作り出している最中だった。


 ギルは魔法陣の展開から防戦一方が続いたのか、肩で大きく息をして、顔色も悪い。魔力切れを起こした典型的な症状が見て取れた。



「な、おっとろしいやろ? ドラゴンをあんなカード一枚から生み出すなんてチートもええところやで。ま、竜人族のヤツが勝ったらワシらエンブレムをもらえることになっとるさかい、勝ってもらわんと困るんやけど」


「はぁ? アンタ、リューヤに買収されてたの!?」


 たまらずミーナが詰め寄る。



「せやで。ちゃーんと書きとどめてあるし、そこまでやってもろたら安心やろ」


「そんな、いつの間に……」


「昨日話がまとまったんや。次に大聖堂でデュエルする時に決行や言うてたで。せやからワシら慌てて魔法陣を準備したんやさかい。なもんで、七賢人の全員は間に合わなかったんやけどな」


「チッ……全てリューヤの計算通りってことか」


 一同に沈黙が降りる。

 今日、リューヤがJ組を訪れたこと、今こうしてデュエルが行われていること、その全てが元々仕組まれていたことが明らかになった瞬間だった。



「ふむ、どうあっても正々堂々と勝負はせぬつもりか。力があるにも関わらず、一方的な勝利しか眼中にないとは、何とも嘆かわしい男じゃ」


 ジュナは苛立ちを露わにする。

 しかし、その横ではさらに怒りに震える人物が。



「ぐぼぉッ」


 翠だ。ヘラヘラと語るモーリーの喉笛を掴むと、一気に宙に持ち上げた。



「もし、やってくれましたね。万が一ギルさまが負けるようなことがあれば、あなたには真っ先に死んでいただきます」


「ぐぐ……くる……し――」


「これ、翠。やめるのじゃ。今そやつを痛めつけても問題は解決せぬぞ」


「……確かに」


 ジュナに言われ、翠は悔しさを押し殺しながら手を離した。

 数メートルの高さから床に叩き落されたモーリーは「ぐへっ」と声をあげ、完全に気を失ってしまっていた。





「……ん? あれ、ワシ何ともないやん」


 モーリーが次に目を覚まし、身体を起こすと、すぐそばにいたラヴィアンと自然と目が合った。



「あぁ、私が薬を飲ませてあげましたから。足の骨が折れていましたがすっかり治っているでしょう?」


「へ? あ、マジですやん。何ともあらへん。さっすが風の薬士キュアゼファーや、大したもんやなぁ」


「礼には及びません。むしろ、あなたには回復薬以外に試薬も飲んでもらいましたので、こちらこそ感謝したいくらいなのです」


「は? し、試薬って何ですのん? そんなん、勝手に人に飲ませたらあきまへんって学校の道徳の時間に習いまへんでしたかあぁ!!?」


「習っていません。だって私、学校には行かずに独学でここまで来ましたから」


「道徳通じひんのッ!? ちょ、あの、ちなみにワシ、どないな薬を飲まされたんです?」


 モーリーに涙目で尋ねられたラヴィアンは左手でパチンと指を鳴らしてみせた。



「どうです? お腹がボコボコ鳴ってませんか? あまり非協力的だとボンッって破裂させちゃうかもなので、態度や振る舞いには気を付けてくださいね」


「……ワシ、寝てる間に爆薬飲まされとるやないかーーーい!!!」


「内臓ぶちまけたくなかったら、最後までこちらの言うことに従ってください」


「アンタ、可愛い顔してマジでおっとろしいで……」


「こっちもそれだけ追い詰められてるってことですよ。いいですか、今あなたの命を握っているのは私です。だからリューヤに買収されたことは忘れてくださいね。これからは私たちに協力してもらいますから」


「そんなん、混じりっ気なしの脅迫ですやん!」


 恐怖に顔を引きつらせながら、尻もちをついた状態で手をかざして後ずさりするモーリー。


 その時、髪の毛を掴まれて一気に高いところまで持ち上げられる。


 怒りに震える少女は、その正体である妖怪が生来持つ残虐性を、抑えることができずにいたのかもしれない。



>>次回は「歯がゆさ」と言うお話です

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る