第33話 スペードの4
「H組のテメーがこっちに何の用だ? あんま人んちでウロチョロしてんじゃねぇよ」
リューヤが爬虫類のような細目でミーナを睨む。
と、それまで喧騒に包まれていた周囲からは音が止み、その場にいた生徒たち全員の視線が二人に向けられていた。
「アタシが何処に行こうがアタシの勝手でしょ。アンタに指図される覚えはこれっぽっちもないわね」
ミーナは一歩も引かない。
強者同士の視線が激しく交錯する中、騒ぎに興奮を覚えた生徒も少なからず存在していた。
昂ぶりを抑えきれなかったのか、不敵な笑みを浮かべた三人の生徒がリューヤの周りにやってくる。
「おー、リューヤくん。なにこれ? 喧嘩?」
「いや、ちょい待て。コイツ、H組のヴィルヘルミーナじゃないですか」
「へぇ、いい女じゃん……。そうだ、リューヤくん。
「あぁ、何か知んねーけど、コイツが俺に上等なんだとよ。B組がナメられんのはムカつくし……な」
「はーい」
「おまかせでーす」
「待ってましたぁ」
頭に黒いバンダナを巻いた
重量感のある斧を手にした
前衛2、後衛1。
三人は陣形を整備すると、同時に襲い掛かってきた。
【パァン】という乾いた銃声が辺りに響く。
遅れてミーナが立っていた位置に騎士の剣とバーバリアンの斧が同時に振り下ろされた。
しかし、ミーナの姿はすでにそこにはない。
ブンッと残像を残す速さで、その場から消えていた。
そのまま前傾姿勢を保ったまま高速移動で三人の背後に回り込み、狙いを定めると片手剣をスラッと抜刀。
一瞬にして三人を背中から斬りつけたのであった。
「ふぅ。なぁんだ。アンタんところの生徒、クッソ弱いカスじゃない」
「へぇ、やるじゃねぇの」
バタバタと倒れる生徒には目もくれず、再びミーナとリューヤの視線がぶつかる。
一瞬にして周囲は騒然となり、慌てて回復魔法の使い手を求めて叫ぶ者の絶叫が響き渡っていた。
しかし、そんな状況下でもミーナは眉一つ動かすことはない。
剣を血振りすると鞘に【キン】と美しい音を奏で、静かに収める。
そして、瞬きもせずに努めて冷静に口を開いた。
「かえって手間が省けたわ。聞きたいことがあるのよ。ねぇ、アンタなら知ってるわよね。ギルくんの噂」
「ギルぅ? 誰だそりゃ」
「……知らないの? 最近色んなところから噂を聞くんだけどね。どうやらB組が噂の火元みたいだけど」
「…………」
ミーナは再び剣の柄に手を掛ける。
おかしな真似をすれば斬る。
そんな闘気を放っていた。
しかし、次の瞬間。
リューヤの口からは予想だにしない言葉が飛び出す。
「そうまで言うならよぉ、ちぃと占ってみっか」
「はぁ?」
「オリャよ、喧嘩するかはいつもカードで決めてんだ。当たるんだぜ、オレ様の占いはよ」
呆気にとられるミーナをよそに、リューヤはポケットからカードを取り出すと、慣れた手つきで華麗なカードシャッフルを披露した。
「おら、一枚取れよ」
手でカードを半円状に広げると、ミーナに差し出す。
警戒しながらもミーナは言われた通りに一枚を引いて、そこに視線を落とした。
「スペードの4だってさ」
そう言って、リューヤにカード裏返して見せる。
すると、リューヤは途端に顔をしかめて片手で頭を抱えてみせた。
「はー、『負の変化』か。やっぱ今日じゃねぇってことか」
「は? なにそれ? どういう意味よ」
「じゃじゃ馬。テメーと遊ぶのは今じゃなくっていい……ってことだ」
「はぁ!? そんなの知らないわよ! 変な理由をこじつけて逃げようってんなら今ここで白状していきなさい! アンタがギルくんの噂を――」
興奮気味にカードを握りしめ、詰め寄らんとするミーナ。
しかし次の瞬間、その手からカードは消えていた。
「言っただろ。テメーと遊ぶのは今じゃねぇって」
一瞬で目の前に詰められていた。
リューヤはミーナを見下ろしたまま、さっきまで確かにミーナの手の中にあったスペードの4を高々と掲げてヒラヒラさせている。
首筋に嫌な汗が伝う。
目の前でニヤついているこの男は危険だと、本能が警鐘を鳴らしているのだ。
「……アタシはしつこいわよ」
「ンなモン、ぜんっぜんかまわねぇ。いいカードが出たらいつでも相手してやっからよ。それまでせいぜい大人しくしとけ」
そう言い残し、取り巻きを引き連れながら体育館の中へと戻っていくリューヤ。
実力者同士による前哨戦は拳を交えることなく幕を閉じた。
しかし、だからと言って、無事だったかと言われたらそんなことは一切なかったのだ。
事実、ミーナは嫌な予感を隠し切れずにいた。
じめっとした霧雨のように、心の外壁にまとわりついて離れない。
「……B組のリューヤか。クソッ、化け物め」
すっかりひと気の無くなった体育館外で、ミーナは思わず独りごちる。
「ね、姉さん……」
その時、ミーナの足首に手が伸びる。
リューヤに一撃でKOされたビンスだ。
腹ばいで身体を引きずりながら、ようやく敬愛する姉の元へとたどり着いたのであった。
「……(ブチッ)アンタが役立たずだからでしょーが! このシスコンがぁ!」
思い通りにならない怒りの矛先をミーナは実の弟に向ける。
【ドフッ】「ぶっひぃィィィィ! ご褒美あざまあああああす!」
理不尽極まりない凶暴な姉と、それをご褒美と言ってはばからない弟。
ラバン姉弟は今日も通常運転だ。
それにしても、とミーナは思う。
何の目的があってリューヤはギルを陥れようとしているのだろう。
まるで接点の見当たらない二人が、一体なぜ。
拭えぬ不安を振り払うように、ミーナは自教室へと戻っていく。
ギルのために何かできること。
それは彼女の贖罪でもあったのだ。
>>次回は「贖罪」と言うお話です!
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【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ
リューヤは
そして、占いも好むみたいだね。
どの腕も一流で、そっち方面でも名が知られているみたいだよ。
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★作者(月本)の心の叫び
いよいよ、第一章も佳境に入ってきました。
じわじわと迫ってくる包囲網をギルは突破することができるのか?
よかったら次話も宜しくお願いしますー!
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