第9話 謎のチーム

 さっき案内してくれた女性がコーヒーを持って来た。香り高いコーヒーを啜って信太郎はやや落ち着きを取り戻す。

「そうか、CLARAかあ!」

 信太郎が呟いた。

「え? 何ですか?」

法条が聞き返す。

「いえ、セントラル・ファッションってCLARAブランドですよね。妻が、祥子が何着か持ってました。僕も去年の誕生日に買ってあげたんです。友達と観劇に行くと言うんで余所行よそいきが欲しいって言うんで」

「素敵なご主人ね」

「ああ、でも。買ったのはアウトレットで。ありますよね。CLARA気軽には買えませんから」

 するとノックの音がして、さっきの女性がまた入ってきた。

「社長。堂上さんがお見えになりました」

 女性がそれで引っ込むと、代わりに堂上管理官が入ってきた。

「真ちゃん、どうも」

 くららが堂上に呼びかける。

「真ちゃん? あの、堂上管理官とはどういうご関係なんですか?」

 信太郎が2人に尋ねた。

「くらら先生、真ちゃんは止めてください」

と堂上。

「失礼しました」

 くららはペコリと形だけ頭を下げると、すぐにソファを勧めた。

と、ドアが開いてもう1人男が入ってきた。

「間に合ったかな?」

 その男は気安くそう言うと、立ち上がったくららの席に座ってしまった。法条社長は自分のデスクからキャスター付きの椅子を転がしてくる。

「初めまして。雑賀さいが王彦きみひこと申します」

 男が信太郎に名刺を差し出した。それで信太郎も勤め先の名刺を差し出す。

「東京総研?」

 信太郎も名前だけは聞いたことがあるコンサルティングの会社だった。いったいこのメンバーは何なんだ? 信太郎はきつねにつままれたような気分だった。全く見えない。

 それを推し量ってか堂上が信太郎に2人を紹介する。

「この2人、探偵なんですよ。そして夫婦」

 信太郎は全く結びつかない2つの単語に面食らった。探偵? 夫婦? どういうことなんだ。信太郎は益々混乱する。

「堂上さん、それでは説明になりません。須合さん、困っていらっしゃる」

 くららが声を上げた。それを引き取って王彦が話し出した。

「職業が探偵って訳じゃないんですよ。まあ結果としてそういう活動もしてるんですが・・・。今回は大島精機の社外取締役の方に頼まれまして、奥様の件を調査しています」

「あ、あなた。この前大島精機本社で」

 信太郎が声を上げた。サビーヌに言われて会社に行った時、柏木秘書と一緒にエレベーターに乗っていた男だった。

「ええ。あなたの奥様が以前秘書をしていた大島専務に会いに行きました」

「妻は大島専務にこの前まで付いていました」

信太郎が言った。

「はい。今年に入ってから柏木さんに代わられましたが」

「ああ、なるほど。妻は少し仕事が楽になったと言ってました」

「今は秘書課の事務仕事をしていましたからね。決して楽なわけじゃないでしょうけど。気持ちの問題としては楽になったのかも知れませんね」

 王彦は意味深に言った。

「私は大島精機のコンサルを担当していまして。この件断り切れなくなったというわけです。で、どうしたもんか困っていたら堂上さんが協力してくれることに」

 王彦はそう言って堂上の方を見る。

「警察と探偵さんが・・・?」

「いえいえ・・・」

 堂上が否定しようと声を上げかけると、横からくららが爆弾を投げ込んだ。

「堂上管理官とはマンションでお隣同士なんです。それで、協力することになりました」

「お隣同士ですか・・・」

信太郎がこの人たちはいったい何者なんだと思いながら、3人の顔を見廻す。

 3人は自分と同世代か、少し若いのかもしれない。しかも警視正の堂上、東京総研の王彦、セントラル・ファッション社長のくららと揃いも揃ってエリートばかりだ。

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