第35話 捜査結果の整理

 楽しい一時だった。大勢おおぜいで食べる食事は美味しい。堂上母の用意した手作りの食事はどれも絶品だった。

 ワインも入り、最後のケーキが全員に行き渡ったところで、堂上が母親を促した。

「いいんじゃないですか? お母様も一緒で」

 くららが声を上げた。

「いえ。殺人事件ですから。母は聞かない方がいい」

 堂上にそう言われると反論の出来ないくららだ。堂上節子がケーキとコーヒーを持って部屋に引っ込むと、いよいよ捜査会議が始まった。

「それでは、まず大島精機社内について」

 御手洗教授が口火を切る。

「社外取締役として色々嗅ぎ回ってみた。はっきり言って社内は大騒ぎだ。臨時役員会は来週。今月末に臨時株主総会を開いて社長の正式就任が決まる。ただ、例の特許侵害訴訟だ。揉めておる」

「その訴訟どこかのタイミングで取り下げられると思われます」

 王彦だ。

「やはり反社長派の策略か」

と御手洗。

「大島貞夫と大島佳那は反社長派に通じています。間違いないと思う」

 これはくららだった。

「つまり、暫定社長浩一を社長にしないために特許侵害訴訟を起こした。首謀したのは常務の刑部勝一でしょう」

王彦が言った。

「浩一暫定社長は弟と妹の裏切りを知らない?」

「たぶん・・・」

「で、刑部常務はパテント・トロールの美加登正三と組んでいる。これも間違いないでしょう」

 王彦が続けて説明する。

「今回はそういう座組みだということ。浩一社長を追い出し、あとは刑部常務が社長に就任するか・・・もしかしたら貞夫が社長ということも」

 すると堂上が手を挙げた。

「先般須合さんからお預かりした帝都興信サービスの報告書ですが・・・、出所は大島美代子でした」

「それは、美代子に依頼されて帝都興信サービスが捏造したということですか?」

 王彦が尋ねる。

「そこはよく分かりません。とにかく帝都興信サービスを締め上げて吐かせたので、捏造であることは間違いないです」

「国家権力、恐ろしいですね」

王彦が堂上を揶揄するように言った。

 すると堂上が全員を見廻して、最後に信太郎を見据えて発言した。

「大島家のお家騒動は警察の関知するところではありません。社外取締役の責務として、またコンサルティング会社のビジネスとして後は勝手にしてくだされば結構です。警察の関心はただ須合祥子さん殺人事件の解決にある。殺されてしまった方の無念を晴らし、御遺族の悲しみに寄り添う、それだけです」

 堂上の演説に信太郎は涙ぐんでいる。そうなのだ、事件の背景を知ることは大切だ。だが、肝心の犯人が捕まらなければ意味がない。

「いったい祥子を殺したのは誰なんだ!」

 信太郎が思わず叫んだ。

「私も真ちゃんに同感。先生とあなたは掴めた事実を元に大島精機の問題を解決してください」

 突然くららが言い出した。そして、

「祥子さんはどんなにか無念だったと思います・・・」

と、続ける。

 すると堂上が再び口を開いた。

「そして生まれるはずだったお子さんのためにも、犯人を挙げずば警察機構の存在意義もない!」

 堂上が吠えた。信太郎は人目もはばからずボロボロ涙をこぼしている。

 王彦と御手洗が目を見張る。くららが震える手で持っていたグラスを置いた。そして堂上に向かって叫んだ。

「それはどういうことですか? 堂上管理官!」

 一瞬堂上はしまったという顔をした。が、思い直すと皆に向かって説明した。

「これは、須合さんには報告してあったんだが、司法解剖の結果、須合祥子さんは妊娠6週間だったことが分かった。憎むべき殺人者は祥子さんと赤ん坊まで殺した!」

「あああっ!」

 くららが慟哭する。

 今までどこにいたのか、サビーヌが信太郎の膝に乗ってきた。黙ってサビーヌの頭に手を置く信太郎。

「先生、コンサルとしてはここまでの事実が分かれば充分です。大島精機との契約に則り臨時役員会にこれを報告して終了とします。私は須合祥子さん殺人事件を追います」

 王彦が宣言した。

「分かっておる。だが、雑賀君忘れて貰っては困る。社外取締役として私が最も懸念しているのは大島精機社内に於いて社長一族のひとりであり、紛れもない大島精機の社員が殺されたという事実だ」

 そう言ってから御手洗が続けた。

「もう一度事件を整理してみよう」

御手洗教授の犯罪学講座の開講だった。

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