第34話 捜査会議はタワマン
タクシーを降りると目の前には50階の威容を誇るタワーマンションがあった。空を見上げると上層階は雲に覆われている。
「凄い・・・」
信太郎が思わず呟く。
『高いところは楽しそうだ。ワクワク』
サビーヌがキャリーバックの中から言った。
信太郎はサビーヌを連れて来ていた。
知らないところへ行くことを猫は嫌う。不安になるのだ。だから、最初信太郎はサビーヌは当然留守番と決めていた。
ところがサビーヌが、
『あたしも連れて行け』
と言い出したのだ。
「知らない人の家に行くのは不安なんじゃないのか?」
『超高層マンションの最上階なんだろ。そんな高いところへ上がってみたい。エレベーターで上がれるんだよな』
「いやいや。猫が好きな高いところとはレベルが違うぞ。パニクるぞ。人様の家でパニック起こしてそこらに粗相などされたら困る」
『失礼な! 大丈夫だ。いつものメンバーが集まるんだろ? 問題ない』
と言う訳なのである。
今日は小雨が降っており、仕方なくタクシーを呼んでここまで来たのだ。
「電車に乗れずに高いものに着いたわ」
信太郎が悪態をつく。
『電車の中はダメだ。知らない匂いだらけで気持ち悪くなる。鳴き喚くぞ』
「分かった、分かった・・・。さあ行こう」
信太郎はキャリーバックを手にマンションのエントランスを入る。遙か先にあるカウンターにコンシェルジュがいた。
「コンシェルジュ付きか!」
ようやくカウンターに着くと、コンシェルジュがにっこり笑って信太郎たちを迎えた。
「いらっしゃいませ。須合様とサビーヌ様ですね」
コンシェルジュに上層階用エレベーターを指示され、信太郎はそれに乗り込んだ。50階のボタンを押す。
エレベーターは勢いよく上昇を始める。耳が詰まる感じがした。サビーヌも同じだ。
『なんだ? 耳がおかしい! よく聞こえない! どうなってるんだ?!』
サビーヌが騒いだ。
「気圧の関係だ。唾を飲み込め」
『猫にそんなことが出来るか!』
「そこにドライフードがあるだろ。それを食べて飲み込むんだ」
『もう残ってない』
「言っただろ、全部食っちゃダメだって。やっぱり食いしん坊だなサビーヌは」
『ここに来るまで暇だったから食べちゃうだろ』
信太郎は全くという顔でポケットから小袋に入ったドライフードを取り出すと、空気穴から1つ2つ中に落とした。
「着いたぞ」
エレベーターを降りる信太郎。廊下を歩き出すと立派な玄関ポーチがある。表札はない。必要ないのだ。
最上階50階には4世帯が住んでおり、いずれもプライバシー保護が厳しい人たちだった。
「ここが多分雑賀さん夫妻の部屋だ。この先だな、堂上管理官の部屋は」
信太郎が歩き出そうとすると、玄関のドアが開いた。
「ああ、須合さん。いいタイミングです。一緒に行きましょう」
王彦が出てきた。あとからくららも。
「ああ、サビーヌさんも。よくいらっしゃいました」
くららは手に大きな箱を持っていた。
「あ、これ、バースデーケーキ。あとで食べましょう」
「バースデーケーキ? 誰かの誕生日なんですか?」
と信太郎。
「ええ。今日は堂上真一郎さんのお母様の誕生日なんです」
「わあ。僕、何も持って来てないです」
「いいんです。そういうのはなしで」
王彦が言うと、さっさと歩き出した。
堂上の部屋はとんでもない広さだった。ちょうど角部屋がリビング・ダイニングになっており、10人くらい座れそうな応接セットが置いてあった。
別にダイニングテーブルもある。こっちもデカい。
「よくいらっしゃいました。あらあ、噂のサビーヌちゃんね。いらっしゃいませ」
この家の当主堂上節子が出て来て、キャリーバックの中を覗き込んむ。耳が治ったこのタイミングでサビーヌはニャンと鳴いた。
「窮屈だったでしょ。さあ、好きなところで寛いでくださいね」
堂上母は勝手にキャリーバックの鍵を外すとサビーヌを促した。
「いや、このままで。ソファで爪研ぎとかしちゃうと大変ですから」
慌てて信太郎が止めようとする。
『そんなことはしない』
サビーヌは言いながら出て来た。
その時チャイムが鳴って来客を告げた。御手洗教授だ。そして奥から堂上真一郎が出て来る。
「ちょっと本庁から電話がありまして、申し訳ない」
最上階のこの部屋に堂上は母親と2人で住んでいる。
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