第23話 また捜査会議

 信太郎と祥子のマンション。今は雑賀夫妻、堂上管理官、そして慶明大学教授の御手洗と信太郎の5人でいっぱいだった。

 信太郎のマンションは決して広くはない。信太郎はキッチンから椅子を持って来てキャットタワーの前に座った。そしてタワー中段のハンモックにはサビーヌが丸くなっている。

 王彦が持ち込んだワインを開けると、くららがチーズやクラッカーなどを広げる。すっかり飲み会だ。

 だが、警察官僚らしく堂上が捜査会議を仕切った。もっとも民間人と捜査会議などしていいのか、信太郎には未だに疑問だったが。

「その、雑賀さんのいう特許侵害の訴えですが、祥子さん殺害事件と繋がるのでしょうか? 単にあなた方の仕事じゃあないのか?」

 そう口火を切った堂上に御手洗が答える。

「確かに、私の依頼で2人には調査をして貰っているが、須合さんの一件をおろそかにすべきではないと私も考えている」

 ここで、信太郎の頭の中にだけ声が聞こえた。

『このジジイは誰なんだ?』

「サビーヌ・・・」

 信太郎が思わず返事をしたのを王彦が聞き咎めた。

「須合さん、ニャンコが何か?」

「あ、いや。すいません。新しいメンバーにサビーヌが・・・」

 信太郎は語尾を濁して言った。すると王彦が御手洗に説明する。説明された御手洗がキャットタワーに近付いた。

「申し訳ない。挨拶が先だった。私は慶明大学経済学部の教授で御手洗と言います。大島精機の社外取締役でもあります。それで、須合祥子さんの事件が会社にどのような影響があるかを考えて調べさせていました。当初は自殺だと思われましたのでな。ところが殺人事件と分かって、今は祥子さんの無念を晴らすことに注力します。宜しくお願いしますね」

 御手洗はそう言って丸くなったサビーヌの背中を撫でようとした。

 だがサビーヌは顔を上げると振り返って御手洗を睨んだ。鋭い目つきだ。思わず御手洗は手を引っ込める。

『正しい判断だ。あたしの身体に触ったらタダじゃ置かない』

 信太郎は冷や汗をかいていた。

「サビーヌ、もういい。分かったから」

「とにかく祥子の四十九日までには事件を解決して欲しい」

 最後は集まった皆に向けて信太郎が言い放った。

 サビーヌも大人しくまた丸くなる。だが耳だけはクルクルと回して捜査会議を聞いていた。

 席に戻った御手洗が改めて王彦に先を促した。

「それじゃあ雑賀君、東京総研で調べた君の情報から」

 すると王彦が珍しく立ち上がった。

「今回大島精機が訴えられた特許侵害は技術本部長大島貞夫のもとで開発されたU—マイクロベアリングです。商品化されて既に4年経ちます。大島精機全売上の7%を占める主力商品になっています」

ここで、王彦はぐるりと一同を見廻した。

「それが今になって特許侵害で訴えられた。須合さんも仰っていたが、あまりにタイミングが良すぎる気がします」

「それは大島智社長が急死した今だからという意味ですか?」

 堂上が口を挟んだ。王彦は頷くと話を続ける。

「はい。社長が急死して承継問題が浮かび上がった今だからです。大島暫定社長は臨時役員会と臨時株主総会で正式承認されて初めて社長になれる。社長を追い落とそうとするなら絶好のチャンスと言えるわけです」

「だけど、ステラ精工の特許を元に訴訟を起こしたパテント・トロール美加登正三にとってこのタイミングを計ることは難しいと思うんです。と同時に賠償金目的ならもっと早くに訴えたはず」

 くららが王彦に続けた。

「どういうことですか?」

 思わず信太郎が声を上げた。

「須合さんが仰ってたように大島精機の誰かがリークした。いや最初から美加登と組んでいてこのタイミングを待って訴えさせた・・・そう考えられます」

 ここで御手洗教授が社外取締役として説明を加えた。

「大島精機内には大島家支配の現体制に不満を持つグループが確かに存在します。以前より社内改革、企業統治の問題として提議はしていましたが、大島智社長の下揺らぐことはなかった。しかし、智社長が引退同然となってから・・・」

 御手洗教授はここで反大島家の常務取締役刑部おさかべ六朗ろくろうの名を上げた。

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