第18話 信頼できない警察
『電話だぞ。留守電になっちまうぞ!』
サビーヌが信太郎に怒鳴った。この固定電話は常時留守電の設定になっている。迷惑電話防止のためだ。
信太郎も祥子もスマホを使う。携帯の番号を教えたくない相手にだけ、固定電話の番号を教えていた。
『まったく。重要な電話だったらどうするんだ』
サビーヌがまた言うと仕方なく信太郎は立ち上がった。ブツブツ言いながら受話器を取る。
「もしもし」
「あ、お出でになった!」
電話口でそう言う声がすると大きな溜息が聞こえて来た。
「もしもし」
信太郎が繰り返す。
「あ、もしもし。失礼致しました。私、帝都興信サービスの大西と申します」
「は、はあ・・・」
信太郎はぼうっとしながら電話を見ていた。
「あ、あの。こちらのお電話は須合祥子様のお宅のお電話で間違いございませんか?」
須合祥子の名前を聞いてようやく信太郎は正気を取り戻していく。
「は、はい。そうです。須合です」
「失礼ですが、あなたは・・・」
電話口の男が遠慮がちに尋ねてきた。
「須合信太郎と申します。須合祥子の夫です」
「ご主人様でしたか。失礼致しました。私ども須合祥子様からご依頼を受けておりまして、その祥子様、奥様が、この度はなんと申し上げて良いか・・・」
「ニャーオ!!」
聞き耳を立てていたサビーヌが大きな声で鳴いた。と、同時に信太郎の頭の中に怒鳴り込んで来た。
『シャキッとしろ。例の興信所だ。用件を聞くんだ!』
「興信所の方ですか?」
信太郎はようやく覚醒した。
「はい。ご依頼の件ですが、調査が完了しました。ですが、奥様にご連絡が付かず、テレビのニュースで知りまして、困っておりましたところで・・・」
電話の男は心底申し訳ないという声で話した。こうして信太郎は妻が依頼していた興信所の男と会うことになった。
翌日、信太郎は警察署へ出向いた。妻祥子の携帯電話を返してもらうためである。
「携帯電話はまだお返しできません」
受付で対応した男性警官が言った。
「なら、中を見せてください。葬儀のために住所録が見たいんです」
「携帯は重要な証拠品であり、お見せすることも出来ません」
警官は頑なだった。そこでやむを得ず信太郎は堂上管理官の名前を出した。その効果か取り敢えず応接室へ通される。
待つこと30分あまり、ようやく堂上が現れた。
「須合さん、先日も申し上げた通り、殺人事件となった今、スマホは重要な証拠品で、まだお返しは出来ないんですよ」
堂上が言った。
「だから見せて貰うだけでいいんです。祥子の、妻の葬儀を行います。通知を出すのに住所録がいるんです。仕事関係とか、僕の知らない人も多いので」
信太郎が説明した。祥子の葬儀は自分とサビーヌとでやろうかとも考えたが、やはり常識的な葬儀は行うべきだと考えを改めていた。
とは言っても同じように社会に出て働いていた祥子には祥子の人間関係があり、信太郎には分からないことも多いのだ。
唯一の手掛かりはスマホだった。電話番号簿、住所録を見れば声を掛けるべき人物も見えてくる。友達関係は通話履歴を見れば簡単そうだ。
今日の夕方には祥子が帰ってくる。葬儀社と早く詰めなければ。信太郎は焦っていた。
「証拠品だ、証拠品だって仰いますけど、結局お願いした興信所の件だって回答して貰ってませんよね」
先日の自宅会議の折に目の前で堂上が命じたことだ。結局その回答が未だにない。信太郎はそこを責めた。
「どうなってるんですか!? 何もやってないなら住所録見せるくらい何でもないでしょう!」
言われた堂上も痛いところを突かれたというところか。
「いや、本当に申し訳ないです。名刺管理アプリにデータはなくて・・・」
「データがない?」
「いえ、データはあるんですが・・・」
「どういうことですか!?」
「データがクラウドにアップされていて、しかもアプリとは別の会社のクラウドサービスで、アクセスできないんです」
「はあ? それでも警察なんですか?」
「個人情報保護の壁はそれ程高いんです」
どうやらパスワード解析の最中に試みたアクセスで、クラウドはロックされてしまったようだ。警察ではロック解除の要請をクラウド運営会社へ出しているという。
「祥子のスマホの解析はどれくらい済んでるんですか?」
「それは・・・」
「結局何にも出来ていなかったりして?」
信太郎が言うと堂上は渋い表情をした。
「まさか。本当に?」
「奥様は何かこう暗号というか、記号やアルファベットで色々書いていまして・・・」
少しの間の後堂上がそう言い訳をした。
信太郎は迷った。興信所とはこれから会う約束になっている。そのことはまだ警察には言っていない。
こんな奴等に教えてやる義務はあるのか? それにもし三浦芳信の居所が分かったとして、それで祥子の意思は尊重されるのだろうか・・・。信太郎は口を
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