第41話 ハンバーグの効果?
「てか、何でウチにいるんですか?」
真一郎が言った。
「いいじゃありませんか。お隣さんなんだし」
雑賀夫妻の代わりに母節子が答えた。
「母さんも、これは捜査機密です」
「私は誰にも漏らしゃしませんよ。医者としての倫理観がありますからね」
真一郎はやれやれといった感じで、母に告げた。
「そろそろハンバーグにしてください」
「分かりました」
節子は席を立つとキッチンに入っていった。
「ハンバーグ!」
「ハンバーグって何ですか?」
王彦とくららが同時に聞いた。
「まあ出て来てのお楽しみです。飲み過ぎないでくださいよ」
すると王彦がバッグの中から大きな紙のファイルを取り出した。それも5冊も。
「それは?」
堂上が尋ねる。
「今日向山秘書室長から借りてきました。来訪者名簿と社用車及び契約タクシーの運行記録です。大島精機ではこれの管理を秘書室でやってるそうです。納入用のトラックとかそういうのは輸送部が管理してるんですが、社員が乗る車は秘書室で・・・」
すると堂上もワインを注ぐ。
「これ、美味しいですね」
ワインは夫妻が手土産に持ってきたものだった。結局一緒に飲んでいるのだが。
「オーパスワンですからね」
くららはそう言うとボトルを手に取る。エチケットには青い影で男の横顔が描かれていた。
「ふうん」
その名前に心当たりはなかったが堂上にもこれがうまいことは分かった。
「で、そのファイルに何か?」
「分かりません。でも何か新しい事実が隠れてないかと思って・・・。これのおかげで美加登正三と刑部常務の密会が暴かれたわけですからね。他にも何か・・・」
するとくららも話に加わる。
「祥子さんに関わる人たち全員の動きを書き出しましょう。その中に何かヒントがあるかも知れない。須合さん、大丈夫そうだった?」
最後はさっきまで信太郎に電話していた王彦に言ったことだ。
「疲れてた・・・」
「そう。早く犯人を捕まえたい」
くららがしんみりと言った。これには堂上も同意だ。
「祥子さんが可哀想。せっかく赤ちゃんだって出来たのに」
くららは隣の王彦の肩に頭を乗せて呟いた。
「どうしました? しんみりしちゃって」
そこへ節子が皿を手にキッチンから出てきた。
「こ、これは!」
「すご〜い!」
ハンバーグの上にさっきのビーフストロガノフが掛かっていた。付け合わせはニンジンとポテトに千切りキャベツだ。
「最後はこのキャベツを残ったソースに絡めていただきます」
真一郎が解説を加える。
「さあ、みんなでいただきましょう」
すると節子が、
「私にはちょっと重いわ。後は皆さんで」
そう言って奥へ引っ込んでいった。
くららはハンバーグを突きながら来訪者名簿を捲っていた。
「行儀が悪いぞ」
王彦が注意する。
「いいじゃない。こういう時に何か見つかるってこともさ・・・」
くららは男たちほどハンバーグに執着はない。まして肉の上に肉を乗せた食事は遠慮したかった。
それで男2人がわしわしとハンバーグを口に運んでいる間、来訪者名簿を捲っていたのだ。
来訪者は来訪者カードに日付け、入場時間、会社名、名前、訪問先の部署名と担当者、訪問の目的を書いて受付に提出する。
来訪者名簿はこのカードをファイリングしたものである。保存期間は1年だ。
大島精機では受付も秘書課の管轄である。
「これ、本来なら訪問を終えて帰る時に訪問先担当者にサインを貰って退場時刻を書き込んで受付に提出する仕組みなのね」
くららが言う。
「実際はサインも退場時間もないカードが結構あるんだ。いずれにしても今時アナログなシステムだよな」
王彦が答えた。するとくららの箸が止まった。
「これ、どういうこと・・・かな?」
「なに? どうした?」
と王彦。
「これ、須合祥子さんが殺された日よね。思わぬ関係者が会社を訪ねてる」
すでにハンバーグを片付けた真一郎が身を乗り出した。
「誰がです?」
くららが指差したカードは、
「大島美代子」
だった。
「会社へ来てた? 訪問先は?」
堂上が聞く。
「えっと。技術本部だ」
「貞夫氏のところへ?」
「分からない・・・。適当に書いただけかもしれないし」
3人が頭を突き合わせて来訪者名簿のファイルを見ている。今度は王彦が声を上げた。
「もう1人、いる」
「え?」
「これだよ」
王彦がもう一枚カードを指差した。
「大西亮次、TKS・・・? 誰なんだ?」
と堂上だ。
「TKS、帝都興信サービスでしょ。帝都の大西だ」
「あの三浦芳信さんを脅した、大西?」
「大西は恐らく美加登正三に使われてるんだろうな。堂上管理官、大西と美加登の関係を調べてくれ」
王彦が言った。
「わかった」
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