第16話 双子

「分かりました。紹介しておきましょう」

 信太郎は不審に思われるのを覚悟で3人をサビーヌに紹介した。

 すると王彦はごく普通にサビーヌの方にちょこんと頭を下げると、

「雑賀王彦と言います。東京総研のコンサルをやってます。この度は大島精機の社外取締役からの依頼で須合祥子さんの事件を調べています」

そう真面目に自己紹介したのである。

 サビーヌはじっと耳だけをそばだててていた。すると王彦に釣られたのかくららが同じようにサビーヌに自己紹介をする。

「さっきはごめんなさいね、サビーヌさん。私たちはあなたのお母さんの仇を討ちたいの。協力してね」

くららは更にそう付け加えた。

 さすがに堂上は馬鹿馬鹿しさを感じていた。が、根が優しいタイプなのか母親を殺された幼い娘と考えてサビーヌに言った。

「私はこの事件の管理官を務める警視庁捜査一課の堂上真一郎だ。決して犯人は野放しにしない」

 するとサビーヌが一声、

「ニャーーーーオン!」

と、高く長く鳴いた。おお、と皆から声が漏れる。

 だが、すぐ信太郎にテレパシーで、

『口だけでなくちゃんと仕事しろ』

そう言ったのである。

「おまえなあ・・・」

 信太郎が気色ばむが、皆にはすっかり受けたようだった。

「すると・・・、益々三浦芳信について知らせないわけにはいかないな、サビーヌ」

 雑賀夫妻、堂上の報告を聞いていた信太郎はサビーヌに了解を求めた。

「どういう、ことですか?」

堂上がすぐに信太郎を問い詰める。

「サビーヌ、いいかい? 僕1人じゃ到底調べきれないよ」

 信太郎はキャットタワーのサビーヌに声を掛けた。

『好きにしろ』

サビーヌから返事が来た。了解の合図だ。

 信太郎は皆に向き合うと話し出した。

「僕もついこの前知った所なんですが。三浦芳信は祥子の弟なんです」

 さすがに一同が固まる。驚きの告白だった。

「三浦芳信は祥子の双子の弟なんです。祥子も弟を探していたようです」

早速堂上が信太郎に質問した。

「祥子さんはどうやって探していたんですか?」

「興信所を使っていたようです。どこの興信所なのか、名刺がないか探したのですが、名刺管理はスマホでやってたと思います」

 信太郎が答えた。

「それで、スマホか・・・」

 堂上がすぐに本部に電話を掛けた。捜査本部は夜でも繋がる。

「堂上です。須合祥子さんのスマホの名刺管理アプリで興信所の名刺を探して欲しい」

 堂上は誰かにそう伝えると電話を切った。

「これで三浦芳信が犯人である可能性が高くなります」

 くららが言い出した。

『あの女は馬鹿なのか?』

突然サビーヌが信太郎に言ってきた。

「どうしてだい? サビーヌ」

 信太郎はおかしな奴確定で、サビーヌに声を掛ける。

『先ずは事実関係が先だ。先入観は不必要だ』

サビーヌが答えた。それを信太郎が自分の口で言う。

 皆の報告からは祥子が大島家にちゃんと認められ、家族として付き合いがあったと表面上は思われた。

 次男の嫁である大島美代子が祥子に色々と手を差し伸べ、大島精機へ招いた。専務の長男浩一もそれを了承している。だが、本音は・・・?

「確かに、そうだな・・・」

 堂上が信太郎とサビーヌの会話を理解しているような態度で話し出した。

「表向きの仲良しなど信用出来ない。承継問題か、遺産相続の件か、3人の兄妹が裏でどう考えていたのか、それはまだ分からない」

堂上が言った。

「それに、もし祥子さんが三浦芳信と接触していたとしたら・・・、少し違う景色も見えてくる」

 堂上の言うことを信太郎は理解出来なかった。違う景色ってなんだろう。だが、サビーヌはキャットタワーの上で、

「ギャアァ!」

とドラ猫のような声を上げた。


 三浦芳信の行方はようとして知れなかった。警察が本格的に調査しても全く分からない。関係者がことごとく亡くなっているからだ。 だが書類(戸籍)の上では三浦芳信は確かに存在する。父親は間違いなく大島智だった

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