第33話 六条飾のストーカーについて その3

 ストーカーを探すのは、苦手ではない。


 そもそも、六条飾りくじょうかざりという上級のストーカーを一人知っているし、彼女の行動を逐次ちくじ。ある意味で、ストーカー以上に、ストーカーに詳しいはずだ。


 六条のストーカーなどすぐに見つけ出してやる。と意気込んでいたのだけれども、そんな必要もなく、ストーカーはそちらの方から姿を現した。


 校門の前に不審者がいる。


 気づいたのは僕ではなくほかの生徒だった。僕は、なるべく多くのチャットグループに参加している。それは情報収集のため。六条のすこやかなストーカー生活を守るためには、彼女や祐太郎だけを見ていればいいわけではない。その周囲も広く知っておくことが何より重要だ。その中の一つのチャットグループに、投稿があった。


 その投稿は、写真付きであげられていた。


 角度的に間違いなく盗撮である。本当に、現代高校生の倫理観はどうなっているんだとなげかわしいかぎりだけれど、今はありがたい。


 見た目、おじさん。20~30代だろうか。ジーパンにパーカー、黒い帽子を目深まぶかにかぶり、マスクをしている。スマホを片手に壁に寄りかかっているが、校門の横あたりだろうか。どこにでもいるかんじのおじさんだが、学校の周りにいれば立派な不審者である。僕が思うに、もっさいおじさんは学校に近寄らない方がいい。通報されかねないから。


 まぁ、もっさいおじさんが皆ストーカーというわけではない。生徒の身内で待ち合わせしているだけの可能性もある。ただ、僕としてはこのタイミングで現れた不審者を放っておくわけにはいかなかった。


 というわけで、僕はこう返信した。



『それ、先生に連絡した方がいいよ。何かあってからじゃ遅いし』



 ちゃんと大義名分を与えてあげるのが大事だ。そうでないと面倒くさがって放っておいてしまう。僕は返信した後、校門へと向かった。六条飾は今のところ、祐太郎のサッカー練習にくぎ付け。できれば彼女が下校する前にかたしてしまいたい。


 校門前には、写真の通りの光景があった。男が壁に背を預けて、スマホを眺めている。いや、スマホを眺めているふりをして生徒に視線を向けているか? 僕は少し距離をとったところから男を観察した。


 別段、わるそうには見えない。あれを見て不審者と言った生徒は、自意識過剰か、それとも相当敏感か。


 しばらくして、教師が校門前にやってきた。教師はきょろきょろとあたりを見回して、それから男を発見する。教師は、こんにちは、と男に話しかける。男は一度無視したが、教師から執拗しつように尋ねられ、鬱陶うっとうしそうに顔をあげた。


 僕のいる位置からでは、彼らが何の話をしているのかわからない。ただ、教師からの問いかけに首をあっちに振ってこっちに振って、とにかく視線を合わせようとせず、しまいには何か叫んで歩き去っていった。


 教師は後を追おうとしたがやめる。深追いする権限も責任もない。そういう判断だろう。それでも十分仕事をしてくれたと僕は歩き出す。


 まず、男は。そうであれば教師に好意的に返答するだろう。次に、だろう。いや、これはないとは言い切れない。別に悪い奴ではないが、コミュ障というのはいるものだ。男がたまたま学校前にいたコミュ障という可能性は捨てきれないまでも、まずは六条飾のストーカーだと仮定して話を進めよう。


 男は、しばらく学校の周りをうろうろしていたが、校門前にまだ教師がいるのを見てあきらめ、舌打ちをしつつ道路に転がっていた空き缶を蹴飛ばした。


 明らかに怪しい。


 ミステリ小説ならば、最初に登場する明らかに怪しい奴というのは、たいていミスリードであって犯人ではない。しかしながら、現実においてはそんなをてらったことはなく、


 ただ六条のストーカーかどうかはわからんが。


 それを確認するために、僕は男の後を追っている。どこに向かうでもなく男はふらふらと歩いて、それから電車に乗った。降りた駅前のパチンコ屋に入り時間をつぶし、ラーメン屋に寄る。


 インスタント麺と変わらないうまさと評判のラーメン屋だ。安いのと量が多いのでわりと人気らしい。


 なぜそんなことを知っているのかといえば、ここがとある人の住む家の最寄り駅だからだ。男はその人物の家の方に歩いていく。


 駅を降りた段階で、ほぼ確信していたが。


 男は、六条飾の家の前で足を止めた。


 当たり。


 こいつがストーカーだ。

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