第9話 ゆえに六条飾はストーカーである

 六条飾りくじょうかざりが、帰宅する時間はまちまちだ。


 祐太郎の生活音の盗聴をどのくらいで切り上げるか。夢中になってしまって彼が寝るまで続けてしまうこともある。そのときは零時を回って、家に着くのは深夜となる。


 それでも次の日にはきっかりと起きてお弁当を作るのだから、六条はなかなかのタフレディといえる。


 帰りも六条はレンタル倉庫に寄って、服を着替え、43分のサイクリングをしてから自宅の扉を開ける。


 家に着くとお風呂に入り、身体を休め、その後、ストレッチしながら肌の手入れをする。


 入れ替えた祐太郎の弁当の具材をゴミ箱に捨てて、翌日のお弁当の下準備を終えたら、やっと六条は床に就く。


 これが、六条の基本的な一日であった。


 さて、ここまで長々と六条飾の活動を語ってきた上で、冒頭の議題に戻り、再度、宣言しようではないか。


 六条飾はストーカーである。


 もはや疑いようがないだろう。ストーカー規制法に照らし合わせてみても、六条の行為はまさしくストーカーであり、ストーカー以外の何ものでもない。


 仮に明るみに出たならば、クラスメイトからは軽蔑けいべつされ、祐太郎からは嫌悪され、あげくの果てには訴訟され、罰則を受けるだろう。


 そのくらい六条は、正真正銘のストーカーなのである。


 ただ、勘違いしてほしくないのだが、六条は決して悪人ではない。


 後を付け回すのも、机をめ回すのも、持ち物を盗むのも、盗聴するのも、すべて祐太郎への愛がゆえである。


 誰かをおとしめてやろうとか、不幸にしてやろうとか、そういう悪意によって動いているわけではないことをご理解いただきたい。


 だが、一方で、六条のストーカー行為は大胆というには稚拙ちせつであり、いつ露見ろけんしてもおかしくないくらいに杜撰ずさんだ。


 こうしてとしては、とても不安なわけである。


 できれば、六条の恋が成就じょうじゅして欲しい。


 それが、彼女の幸せであろうから。


 ただ、六条のメンタリティ上、それが難しいそうだ。彼女は、今、恋愛を成就させることよりも、ストーキングすることに喜びを見出しつつある。


 それならば、僕は、六条のストーキングがうまくいくようにサポートしよう。


 それが、彼女の幸せであるならば。


 だって、僕は六条飾を愛しているのだから。

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