第37話 六条飾誘拐事件 その2
「だ、だ、誰だ?」
「おまえは知らなくていいことだ」
僕は、地面に転がる
「ふざける、な。お、とこ? ま、がえる、わけ」
男と間違えるわけない。乃木外はそう言いたいのだろう。普通に考えればその通りだ。カツラをつけたからといって、いくら装いを真似したからといって、乃木外は六条飾のストーカー、いつも見ていた六条飾と僕を見間違えるわけがない。
だが、その前提を変えてやれば、話は変わる。
もうおわかりだろう。乃木外が昨日まで見ていた六条飾も僕なのだ。
いくつか訂正しよう。まず、僕と六条と乃木外のチキンレースにおいて、最初にしびれをきらしたのは乃木外ではない。もちろん、僕の女神、六条飾である。
彼女に好きを諦めるという選択肢はない。さらに、好きを我慢するということも、また我慢ならないのである。
数日前から、六条飾は祐太郎へのストーキングを再開していた。彼女にバレるとかそういう恐れはないのだろうか。そもそもバレてもいいのならば、ストーカーなどせず堂々と祐太郎に告ればいいのではないかと素朴に思うのだけど。
まぁ、それはいいとして、六条飾が朝から晩までのストーカー業務を再開すれば、乃木外の待ち受ける既定のルートを通る六条飾がいなくなる。僕が入れ替わるのは容易ということだ。
初めは乃木外にも違和感があったかもしれない。しかし、数日もたてば見慣れる。そして記憶の中の六条飾のシルエットが更新される。
その結果、間違える。
「まぁ、おまえの愛がその程度だということだよ」
本当に愛してさえいれば、たとえ何者かに工作をなされたとしても、思い人を間違えることなんてありえない。ストーカーのようなゴミ虫には、無理な話だろうが。
カバンの中にいくつか工具を入れておいた。ガムテープは車の中で切ってしまい、あとは乃木外が自分で人気のないところに運んでくれる。
スタンガンは、六条が先日、山に捨てたものを回収した。おそらく買ったはいいが使い方も捨て方もわからなかったのだろう。だからといって平気で不法投棄するのはやめた方がいい。
ただ安く武器が手に入った。そのおかげで乃木外は転がっている。
あとは縛って、乃木外を完全に無力化する。それから、これまで集めてきた情報を用いて、奴がストーカーを諦めるように脅すだけだ。
僕は自分の心臓の音を聞く。早鐘を打っている。当たり前だ。準備こそしっかりとしたが、僕はただの高校生。暴力だの脅迫だのの犯罪行為とは縁がない。恐怖と高揚感で心臓がバクバク鳴っても仕方がないだろう。
だが、やり遂げなくては。愛する六条飾のためにも―—
「このぉぉお!」
ちょうど拘束用のガムテープを手に取ろうとしたところだった。視線を外した一瞬。ほんの一瞬のつもりだったのだけど。
やり返された。
乃木外が、俺に体当たりをしてきた。
「っ!?」
油断したつもりはなかった。ただ、もう完全に倒したつもりだった。スタンガンの能力に期待し過ぎていた。わかっていたつもりなのに。スタンガンだけで気を失わせるような効果はないと。
僕は、地面に転がった。慌てて立ち上がろうとしたけれど、それはならず、乃木外にまた突き飛ばされ、そのまま上に乗られる。
「この変態野郎がぁぁぁあ!」
乃木外は叫びながら、僕を殴ってきた。僕はなんとか腕で顔を
僕は今そういう状態に
痛みの中、僕は右手で持っていたスタンガンをもう一度、乃木外の脇腹に当てる。
「「あぁぁぁぁぁあ゛!!!」」
近くにいた僕もその衝撃を受けて同時に
そして、さすがに言い返さずにはいられなかった。
「変態はおまえだろうが! このストーカー野郎!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます