第36話 六条飾誘拐事件 その1
僕が穏便に
そんなことはどうでもいい。
つまるところ、僕が間に合うか間に合わないかで乃木外が死ぬか死なないかが決まる。あんな奴は死んだほうがいいと思わなくもないが、殺人にはリスクが
というわけで、いろいろ準備をしていたのだけど、結果として、しびれを切らして強引な行動を起こしたのは、僕でも六条でもなく、乃木外のバカタレであった。
その
レンタカー?
どうして乃木外がこのタイミングで?
どこか旅行に行くというのならば平和でいいが。彼の思考回路から想像するに、そんな
つい最近、
疑わしいと感じた時点でタイムリミットにしてしまってもよかったのだけど、あと少しで僕の工作が整いそうだった。だから、少し泳がせておいた。
別にタイミングを
そこは六条飾りの通学路、ということになっている。ストーカーがいると六条飾が自覚してから、彼女はこの歩いて電車で向かうルートを使っている。乃木外は、その途中。もっとも人通りが少ない場所で彼女を待つ。
イライラとハンドルを叩く。タバコの箱をこんこんと叩くけれど出てこない。今、乃木外は金欠でタバコを買う金はない。レンタカーを借りるための金を
日が暮れて、一人のセーラー服を着た生徒が現れる。少し暗いが、髪型、背格好、カバンを見れば、待ち人だとわかる。乃木外は歓喜してハンドルを叩く。
ここで当たり前のことを言うが、誘拐は犯罪である。
そんなことは乃木外もわかっているはずだ。高校生の少女を自分の欲望のままに誘拐することに対して罪悪感を抱くことだろう。その良心に従って、思い直すのならば丸く収まる。のだが。
思ったよりも、手際がよかった。
いや、思い切りがよかったと言った方がいいだろうか。乃木外は車の横を通り過ぎようとした少女を後ろからぐいと抱えこみ、手荷物ごとそのまま後部座席に押し込んだ。慌ててガムテープで口をふさぎ、続いて腕と足をしばる。そのあと、バタンと扉を閉めて、荒い息のまま乃木外は運転席に戻り、アクセルを踏んだ。
調べた限り誘拐の前科はなかったはずだが、初めての誘拐にしては、なかなかスムーズに事が進んでいる。そういえば六条飾も立花律子をイリュージョンのようにさらっていった。ストーカーは誘拐の授業を必修で受けているのだろうか。
乃木外は、車を走らせる。
向かう先は町はずれの廃工場。よくみつけたなと思ったが、彼の経歴を調べると近くのラーメン屋でバイトをしており、そのときに知ったのだろう。
ガラガラとシャッターをあげてから、乃木外は少女の身体を抱え、工場の中へと入る。そして、汚い地面に転がす。
気分が
ポケットから取り出したのはタバコ。おそらくこのときまで我慢していたのだろう。くしゃくしゃにした箱の中からタバコを一本取り出し、震える手でライターの火をつける。そして、少女を眺めつつ、ふーっと息を吐く。一仕事やり終えた後の一本、僕にはわからないが、さぞかしうまいに違いない。
さて、ここで不思議に思う者もいるだろう。六条の危機に、僕は何をやっているのかと。こうやって乃木外の様子を逐一言い表せるということは近くで見ているはず。だとしたら、さっさと六条のことを助けるべきではないかと。
まったくもってその通りだ。六条が乃木外のくそ野郎に誘拐されてしまったのならば、なりふりかまわず助け出すべきだ。こんな悠長な実況をしている場合ではない。
「六条が誘拐されたならね」
「は?」
乃木外はタバコを工場の
バチン!
という光が鳴る。音とともに乃木外の体は弾き飛んだ。
乃木外の視界にいたのはスタンガンを持った六条。いや、六条の装いをした男。
つまり、僕だ。
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