第35話 六条飾のストーカーについて その5

 乃木外のぎそとのストーキング行為は、さらにエスカレートしていった。


 六条の家のポストに手紙やを挿入したり、家の周りをうろうろとして六条飾りくじょうかざりに声をかけたり、家の前で夜中に大声で叫んだり。


 激ヤバ。


 人としてかなりやばい。こんなことをして恥ずかしくないのだろうか。周りへの迷惑だとか、相手への思いやりだとか、そういうものを一切持ち合わせていないのだろう。典型的自己中。つまりこの世のゴミだ。


 ひかえめに言って、死んだ方がいい。


 乃木外のこの常軌じょうきいっした行動に、六条飾はさぞかし恐怖していることだろう。と思われるかもしれないが、実際のところは、さほど怖がっていない。


 その理由は、まぁ、僕が工作しているからだ。


 まずポストに投函とうかんされていた手紙と異物の入った封筒は僕が事前に回収した。そもそも日課として、便。そこにやましい理由はなく、ただ六条飾の動向を知るため、それから、こういった不審物を回収するため。


 このSNS全盛期の時代に、手紙を書くという風情ふぜいだけを評価しよう。ただ、字は汚いし、語彙ごいはないし、あまりに下品。二言目にはヤりたいと書いており、性欲という寄生虫に脳を侵食されているに違いなかった。


 異物はかるく確認したうえで、そっ閉じし、ナイロン袋に入れて保管した。中身は、ちょっと口にするのははばかられる代物しろもので、こんなもの保管しときたくはないのだけど、警察に突き出す際の証拠として使えるため仕方なく。


 というわけで、手紙は届いていない。


 次に、家の周りをうろうろしている件については、六条家の住人が帰る時間、警察の巡回を増やしてもらっている。乃木外は警察を恐れる傾向があるため、これは有効な手段であった。


 ただ、警察はそう簡単に動かない。不審者なんてそこいら中にいるし、警察のリソースにも限りがある。のに警察が動くわけもない。


 では、どうすればよいか。簡単な話、のである。


 もちろん六条飾が襲われてしまったら本末転倒。だが、他の誰かが襲われる分には別にかまわない。


 六条飾が帰宅する時間あたりに、僕は事件を起こした。この帰宅する時間というのが難しかったのだが、最近はかなり早い。乃木外にストーキングされているという自覚があることから、雄太郎の家までついていくことを自重しているからだ。


 乃木外とよく似た服装をそろえて、六条飾の通学路を歩く。起こす事件は簡単なもの。というもの。ただの水であっても、知らない奴に突然ぶっかけられたら、めちゃくちゃ怖い。よい子は絶対にマネしないでほしい。


 三日ほど連続で起こしたところ、警察の巡回が明らかに増えた。これで、乃木外もなかなか動きづらいだろう。


 それでも夜に発狂して叫んだりするのだから手に負えないが、こちらは防音することで対策した。六条家が留守になる昼間に忍び込み、窓と壁に防音処理をほどこした。難しいかと思ったが、最近は配信者などが多く、防音方法などが多くネットにあがっている。金はかかったが僕にでもできないことはなかった。


 こうして、乃木外のストーカー行為は、六条家にしっかりと隠ぺいされていた。


 けっこうがんばった、僕。


 さて、乃木外のストーカー行為はある程度妨害できているのだけど、それとは別に問題が発生していた。


 六条飾がイライラしている。


 理由はもうおわかりだろう。自分がストーカーされているせいで、祐太郎のストーカーを十分にできないからだ。うーん。字面じづらにすると意味わかんないけど、そういうことである。


 六条飾は基本温厚な性格であるが、祐太郎のこととなると感情的に動きやすい。極端な行動をとる可能性もある。たとえば、恋敵を地中に生き埋めにしてしまうとか、乃木外のことを気にせずに祐太郎のマンションまでつけて行ってしまうとか。そうなれば六条飾のストーカー行為が乃木外に露呈ろていしてしまう。


 それは僕が人生をして隠ぺいしていることであり、そうなった場合、僕は乃木外を本当にこの世からBANしなくてはならなくなる。


 できれば、それは避けたい。


 ということで、僕は、できるかぎり穏便な方法で六条飾のストーカーを排除する方法を考えることにした。


 うーん、あるかなぁ、と思考を巡らしつつ、最悪の事態も想定して僕は

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