第34話 六条飾のストーカーについて その4
乃木外がストーカーだと判明した後、僕は彼のアパートまでついていった。六条の家の前で何かするのかと不安だったのだが、彼は郵便物を確認して、しばらくうろうろしただけだった。
家は隣駅から15分ほど歩いたところにあるぼろいアパート。表札は出ていなかったが、それこそ郵便物を確認すれば名前くらいすぐわかる。
今の時代、住所と名前がわかれば、だいたいのことがわかる。さらに郵便物から登録しているオンラインサービスもわかったりするから、恐ろしい話だ。
28歳、無職、というよりニート、出身は干葉県で、金銭トラブルで親ともめて
ちなみにこの辺りは乃木外のSNSで判明した。捨てアカを使って親やバイト先の悪口を書きまくっていた。こんなの僕じゃなくても関係者にすぐバレるだろう。大人なのにそんなこともわからないのか。
そのおかげで、彼の素性がすぐわかって助かったのだけど。
乃木外は、今は働いていない。生活保護を受給している。行政サービスに詳しくないが、そんな簡単に生活保護を受けられるものなのだろうか。何か不正しているんじゃないかと疑いたくなるが、まぁ、それは僕には関係のない話だ。
そんな乃木外は、ひと月ほど前から六条飾についての投稿を始めている。名前こそ出していないが、このシックスちゃんというのは六条飾のことだろう。シックスちゃんの太ももがどうとか、ブラ透けがどうとか、セ〇クスしたいだとか、見るに堪えない下品な投稿が続いている。
もう逮捕でいいだろ、こんな奴。日本の警察は何をやっているんだ? それとも実際に犯されないとだめか? 日本という国がそんなレ〇プ推奨国家だとは知りませんでしたよ、あー、はい。
しかも、なんかSNSだと両想い設定なんだよな。
これはストーカー特有の勘違いで、相手も自分のことを好きなはずだとなぜか思い込む。話したこともないのに、どうしてそんなことが起こると思うのか。頭がおかしいとしか言いようがない。
その勘違いがこじれて、悲惨な事件に発展するケースも少なくない。
早く気づけてよかった。
ちょうど乃木外の行動がエスカレートする直前だった。そのきっかけは校門で教師に
「シックスちゃぁん」
なんと、乃木外は六条飾に接触したのだ。
これは僕にとっては予想外だったが、別にこそこそつけまわすだけがストーカーじゃない。相手にいやがらせじみたちょっかいをかけてかまってもらおうとする奴もいる。いや、そちらの方が断然多い。
乃木外は、少し酔った状態で六条飾の家の前で待ち続け、そして、夜遅く帰ってきた六条、もちろん日課の祐太郎のストーカーを終えて帰ってきたところなのだけど、その彼女の前にぐいと立ちはだかった。
「こんな夜遅くまで何してたの? 危ないよぉ」
危ないのはてめぇだと全力で突っ込みたい。
六条飾の方は、何を言われているのかわからない、いや、そもそも自分に言われているのだろうかといったふうに後ろを振り返っていた。
「あの、どちらさまですか? 誰かと勘違いしてますよ、きっと」
「な、何だよ。き、き、昨日もいっぱい話したのに。忘れちゃったの?」
そりゃ、てめぇの頭ん中での話だろ。
空想と現実をごっちゃにし始めたら末期である。クスリはやっていないはずだが、やばいという意味ではそう変わらない。
このままだと六条が襲われかねない。僕は陰から見守りつつ、さすがにそろそろ出て行った方がいいかとつま先で地面をじりじりと擦った。
そのとき、やっと、パトカーが道の向こうからやってきた。
間に合った。
六条が帰宅する時間を見計らって、僕が警察に通報しておいた。この辺りに不審者がいるので対処してほしいと。そう言われれば、何かしなくてはならないのが警察である。パトカーでぐるりと巡回くらいはすると思っていたが、そうなったらしい。
乃木外はパトカーをみつけるや否や体をこわばらせて、くるりと背を向けた。そして
というか、警察にあったらヤバイことをしているという自覚はあったんだな。
六条は、怖がる様子はなくきょとんとしている。彼女は鈍感というか、意外と
それにしても、乃木外がこうやって、六条に接触しようとしてくるとなると、もう時間はない。なるべく早く、この男を処理しなくてはならない。
六条に危害を加える可能性があるというのであれば、命を懸けてでも、命を奪ってでも。
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