第7話 六条飾のストーカー行為 その5

 放課後になると、祐太郎はサッカー部の練習へと向かう。


 当然、六条飾りくじょうかざりは、祐太郎の雄姿を見守る。そんなのは当たり前だ。六条にとっては義務なのだから。


 ただ、既にご理解いただいているかもしれないが、六条に堂々と部活動を見学する度胸どきょうなどない。あればストーカーなどという犯罪行為に手を染めたりしないだろう。


 サッカー部の連中にも、友人、その他の連中にも気づかれることなく、こっそりと祐太郎の姿を見守っていたい。ただ、学校というところは人が多い。頭のわるい高校生どもの行動を予測することは難しい。さらに、グラウンドは遮蔽物が少なく、こっそり見守るには不向きである。


 ゆえに、六条はグラウンドにはいない。


 特別教室棟の2階のすみにある社会科準備室。放課後に誰も寄り付かないその部屋の窓から、六条はグラウンドを見下ろしていた。


 カーテンを閉める。そして地図のしまってある戸棚の奥に六条は手を突っ込む。そこから取り出したのは、もちろん地図ではなく、コンパクトな望遠鏡であった。どうしてそんなものがあるのかと聞かれれば、事前に六条が持ち込んでいたからである。彼女は、一緒に三脚を取り出し、器用に組み立て、それから望遠鏡を取り付けた。


 六条は、そのまま望遠鏡を覗き込まない。横に立てたタブレットを食い入るように見いっている。最近の望遠鏡は高性能で、映像を無線でタブレットに送ってくれるのだ。こちらの方が疲れないし、祐太郎を大きな画面で見ることができる。


 三脚のハンドルを握り、タブレットを見ながら、祐太郎を追いかける。


 これで、六条は、こっそりと、しかし確実に祐太郎の姿を楽しむことができる。六条は別にメカに強いわけではないが、ストーカーのためならばこのくらい問題ない。ハイテク技術も、ストーカーしやすくするために進化してきたわけではないだろうが。


 問題点は暑い事。


 社会科準備室は、いわば倉庫みたいなもので、空調は整備されていない。ゆえにほこりっぽいし、空気はこもるし、すごい暑い。


 三脚のハンドルが、スマホから操作できれば、設置だけして、もっと空調の効いたところから見守れるのだけれども、さすがにそんな高性能な三脚は高価で、六条には買えなかった。


 ならば諦めるかと言われれば、そんなわけもなく、このくらいの悪環境は何のそので、六条は汗を垂らしつつも、タブレットをにやにやと眺めるのだった。

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