六条飾のストーカー行為はなぜ露見しないのか

第10話 僕こと笹木森恒平について

 笹木森恒平ささきもりこうへい、16歳。黒髪でやや長髪、色白で身長は中の下。普通という字を体現したようなルックスをしており、横を通り過ぎても、学生というアイコン以外に気づく要素がない。そんな無個性な男子高校生。


 どちらかといえばインドア派だが、勉強ができるかといえばそうではない。プロパガンダ全開の歴史創作物には興味がなく、数字の運動会に参加する気力はない。特に、27個の記号で組まれた暗号解読がどうして主要科目に含まれているのか謎でしょうがないと思っている。お国は、日本の高校生を総じてバーロ―系名探偵にでもしたいのだろうか。


 インドア派ということで、想像にたがわず、スポーツは得意でない。特に球技は苦手で、まったくどうしてボールのコントロールができやしない。おそらく前世で、ボールの神様の反感を買ったのだろう。蹴鞠けまりに落書きしたとかなんとか。


 部活には一応所属している。写真部で、さほど活発でないゆる系部活動だ。週に一度、適当に撮った写真の論評をする。また、言い訳するみたいに、年に一回、コンテストに応募する。


 この部活は気に入っている。なぜなら、カメラが支給されるし、私用に使ってもバレやしない。さらに、カメラの部品が部費でまかなえるおまけ付きだ。


 とはいっても、別に写真が趣味というわけではない。何でもない日常を切り取って、SNSにあげまくるような露出癖ろしゅつへきはないし、自己主張のために誰かをおとしめたいというジャーナリストだましいも持ち得ていない。


 ただ、記録しておく装置としてカメラは有用。それだけだ。スマホにカメラが常設されている時代とはいえ、カメラを扱うには、それなりに技術がいるため、それを学ぼうという趣旨しゅしで部活を決めた。


 友達は、少ないながらもいるにはいる。いつの間にかできていたわけではなく、能動的に作ったものだ。理由の一つはぼっち回避のため。一般的に、それ以外に友達を作る理由なんてないだろう。ぼっちが許容される世の中であれば、誰が好き好んで、自由をはく奪するだけの友人関係なんかを作るものか。


 恋人はいない。これまでにいたこともないし、そのことを悲しんだこともない。恋愛関係も友人関係と似たようなもので、自由と時間とを引き換えにして、ほんの少しの精神的もしくは肉体的快楽が得られるというもの。


 女子というものに、それだけの価値があるとは思えなかった。そもそも話は基本的に愚痴ぐちばかりでおもしろくないし、一緒に行動することをいるし、わがままばかりを言うし、変なところで大人っぽくてこちらを見下してくるし。


 高校生というものは、恋愛に命をける傾向けいこうがあるけれど、それは、あまりにも無駄でおろかしい行為だと言わざるを得ない。


 ただ、友人関係と恋愛関係には決定的な違いがある。


 だということだ。


 不合理なことと頭で理解して、絶対にそんな愚行には手を染めないと警戒して、近寄らないようにと気を張っていても意味がない。


 その瞬間は、不意におとずれ、人が人である以上、避けることは不可能であり、あらがいようのない勢いで落ちていく。


 そう、落ちるのだ。


 決して登ることのできない、恋という奈落の底に引きずり込まれていく。


 心なんてものが、身体のどこに詰め込まれているのかわからないが、仮にそんなものがあるのだとしたら、きっとそいつは神が人を苦しめるために与えた呪いの臓器。原罪と言って過言でない。


 恋人はいない。


 だが、好きな人はいる。

 

 そんな、平均的なルックスと平均以下の運動能力と学力を持つ、ごくごく平凡な男子高校生。


 それが笹木森浩平こと、僕のプロフィールである。ただ、そんな平々凡々の僕のプロフィールはどうでもいい。ここまで長々と語ってきて今更そんなことを言って申し訳ないけれど。


 僕を言い表すならば、一言でいい。




 僕は、六条飾を愛している。

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