第11話 六条飾を好きな理由について

 六条飾りくじょうかざりのどこが好きか。


 それを僕に尋ねるのはこくというものだろう。恋は盲目もうもくなどとはよく言ったもので、実のところ、僕自身がいちばんわからない。


 ルックスは、まぁ、好みだ。彼女は、ごく一般的に言ってかわいいし、男子であれば、好きになってしまって仕方ない程度に魅力的だ。


 それでいてやさしくて、人当たりもよく、性格の観点から見ても好きになる要素は多分にある。むしろ彼女の公開情報から考えれば、嫌いになる要素などないように思える。


 しかし、彼女はストーカーだ。


 それも同じクラスの男子、堀沿祐太郎のストーカー。


 ひかえめに言って、あまりに悲惨ひさんだ。


 いくら、かわいくても、やさしくても、ストーカーにいそしむ女であれば、総合的に言って好きになることはできない。


 はずである。


 しかし、僕は好きになってしまった。


 理由なんてものは曖昧あいまいで、ささいなことで、ルックスかもしれないし、声をかけられたからかもしれなし、もしかしたら、ちょうばたいたからかもしれない。


 つまるところ、僕は、六条のことが好きで、好きで、好きだということ。それ以外は、不要な情報ということだ。


 六条の幸せこそが、僕の幸せ。


 それがすべてだ。


 だから、僕のことを好きになってほしいなんて思っていない。それが、六条の幸せなのならばうれしいが、平々凡々の僕と付き合うことが、彼女の幸せになりえるとは到底考えられない。


 他の人を好きであってもいい。そんなことは、僕が六条のことを好きであることの障害にはなりえない。


 六条が、他の男子をいているのならば、その恋が成就じょうじゅするようにつとめよう。彼女の笑顔こそが守るべきもの、彼女の笑い声こそが至高の喜び。


 そして、六条が、その恋の成就におくして、ストーカーに身を落としたとしても、僕の行動原理は変わらない。


 六条が、ストーカー行為に快感を覚えているのであれば、僕は、


 そんなのは、恋を知る者にとっては当たり前の話で、もしかすると、ここまで丁寧に話さなくても、皆、容易に想像できたかもしれない。


 ただ、六条のストーカー行為に関しては、いささか問題があるといえた。


 六条のストーカー行為の数々については、既に語ったとおりである。それらは常軌を逸しているのは間違いないが、問題というのはそれではなく、もっと別のところにあった。


 六条のストーカー行為は、杜撰ずさんなのだ。


 いったい学校で何を学んできたのかと問いただしたくなるくらいに、六条のストーカー行為は杜撰であった。


 無謀むぼうで、無計画で、突発的な行動が多く見られ、隠密おんみつさと緻密ちみつさを母のおなかの中に忘れてきたのではないかと疑いたくなる。そんな六条がストーカー行為に及んでいるのだから、いつバレてもおかしくない。


 否。


 おそらく、六条が、単独でストーカー行為に及んでいた場合、既に露見ろけんしているだろう。


 では、どうして、まだバレていないのか。


 それは、もちろん僕が協力しているからだ。

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