君は昨日シャンプーを変えた ~六条飾のストーカー行為について~

最終章

六条飾はストーカーである

第1話 六条飾について

 六条飾りくじょうかざりはストーカーである。


 などと、いきなり言われても、彼女を知らない者には伝わらないだろうし、彼女を知っている者であれば、一笑に付されることだろう。


 風栄ふうえい高校2年C組、出席番号35番、身長157㎝、体重はシークレットだが、別に太っているわけでもなく、適度に細く、美しい曲線のシルエットを持つ六条は、いわゆる優等生であり、ストーカーなんて言葉とは無縁むえんの存在だ。


 いや、無縁というより、別の関わり方をするといった方がいいだろう。六条がストーキングするのではなく、六条がストーキングされる。その方が、一般的に想像され得る話だ。


 ストーカーされてもおかしくない、そのくらいに六条飾は美しい。


 端正たんせいに整った顔立ちに、える程度のメイク。メイクの方は校則にひっかからず、それでいて主張し過ぎない手際てぎわで、同性からも評価が高い。


 髪は明らかに染めているが、教師には、日焼けだとごまかしている。毛先は軽く巻いており、そのままファッション紙に登場できそうなレベルだ。


 スタイルもよく、制服など彼女専用にあつらえられたようだ。もう少し背が高ければ、モデルの仕事でスケジュールが埋まっていたことだろう。


 すれ違えば、髪から香るシャンプーの匂いに、男子は思わず振り返ってしまうに違いない。


 こういう外見にステータスを振り当ててしまった女子というものは、たいていの場合、性格がわるいと相場が決まっているのだが、六条飾はそんなこともなく、春の日差しのように朗らかな性格をしている。見た目もよく性格もわるくないというのは、稀有けうな例だ。美しい外見を鼻にかけるわけでもなく、六条は、誰にでも優しく接していた。


 廊下ですれ違って、ふと振り返ってしまった下心丸出しのしょうもない男子にも、六条は優しく微笑ほほえみかける。


 重い荷物を持った老人がいれば手伝ってあげる、電車の中ならば席を譲ってあげる、何か探している人がいれば一緒になって探してあげる。


 人を思いやる心を正しくもった女の子。


 ただ、おもしろみのない優等生というわけではなく、いささか不真面目さも残している。先にも述べたように、一般的な女子高生として、校則の穴をついておしゃれをしたり、授業中にうとうとしたりすることだってある。


 そんな不完全さが、またかわいい。


 成績は平均的で、数学がやや苦手。二次関数の平行移動のあたりでつまずいてしまい、未だに克服できていない。英語も別に得意というわけではないが、洋楽が好きだったりする。


 さて、ここまでの話をまとめるならば、つまるところ、見た目がかわいらしく、性格のよい、成績平凡の女の子。


 そんな少女がストーカー?


 はは、ありえないでしょ。というのが一般的な見解だ。


 しかし、これは事実であり、ファクトであり、真実であり、現実である。


 六条飾は、ド変態のストーカーだ。

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