第2話 堀沿祐太郎について

 堀沿祐太郎ほりぞえゆうたろう


 それが、六条飾りくじょうかざりのストーキング対象者の名前だ。


 同じクラスの男子高校生。背が高く、ほどよくきたえられた肉体が、なかなかセクシーといえる。それでいて、いわゆるイケメンに分類される彼は、もちろん女子に大人気である。


 サッカー部に属する祐太朗は、一年生の頃から、そのすぐれた身体性能によってエースをになっており、試合でも活躍している。


 勉強は、中の下といったところ。しかし、高校生の評価基準なんてものは、顔とスクールカーストの二点のみであり、勉強はむしろできないくらいの方が愛らしい。


 そういう意味では、顔に関して申し分ない。そして、サッカー部にぞくし、さらに、ほがらかな性格の彼がスクールカースト上位であることは間違いない。


 そんな高評価な男子高校生、堀沿雄太郎のことを、としてもおかしな話ではない。


 おかしくはないのだが。


 好きだからといって何でもしていいわけではない。後をつけましたり、持ち物をめたり、ぬすんだり、といった非道ひどうは、仮に好きで好きでたまらなかったとしても許されるわけがない。そんなことは誰でも知っているはずだ。


 しかしながら、ときおり、そんな常識を知らない者がいる。


 好きだったら何をしてもいいと勘違いする阿呆。


 その阿呆のことを俗にストーカーと呼ぶわけだが、六条飾はまさしくそれであった。


 つまるところ、沿、なんていう、青春なことを言い出すわけだ。


 これだけ聞けば、頭のわるい青春ラブコメディの常套句じょうとうくのようで、はっきり言って胸やけする、と言う者もいるだろう。


 しかしながら、六条の好きに対する行動は、甘酸っぱいでは済ませられるものではなかった。


 だからといって、しょっぱいと表現すればよいのかはわからない。何味かと聞かれれば、納豆やおくらのような粘り気満点のねっちょり味。それは、味ではなくて食感では? という野暮な反論は置いておくとして、とにかく、彼女の行動は、口にするには躊躇ためらわれるような、気持ちのわるいもの。


 ただ、六条飾自身に、その自覚があるのかはわからない。いや、おそらくないだろう。自覚があったならば、あのような愚行ぐこうに走ることもないはずだ。


 まぁ、ストーカーであるかどうかというのは、ある意味で主観。その定義は、なかなかに難しい。


 ということで、六条がストーカーかどうかを疑う者は、この先の話を聞いてから判断してほしい。

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