六条飾の恋敵を失踪させてはならない

第19話 高校生の一般的な恋愛事情について

 高校生の恋愛事情なんてものは、目まぐるしく変化するものである。


 好き嫌い、告った告られた、ヤったヤられたで、脳内の8割が占められいてる男女が、小さな教室の中に押し込められているのだ。


 そりゃ、年がら年中、色めき立つのも仕方のない話。


 六条飾りくじょうかざりも、絶賛、色めき立つ、というか、発情している最中であり、堀沿祐太郎ほりぞえゆうたろうへの恋心をこぼれんばかりにいだいている。


 ならば、さっさと告ればいいものを、奥ゆかしい六条はそんなはしたない行動をとらず、祐太郎を常に陰から見守り、常に後をつけ、常に恋焦がれるというストーキングをつつましやかに行っている。


 ただ、残念ながらストーキングでは、六条の恋心は祐太郎には伝わらない。


 そりゃそうだろう。


 伝わっては困る。


 そもそも伝わらないように、祐太郎への恋心を昇華させる行為がストーキングなのである。


 しかしながら、先にも述べた通り、高校生の恋愛事情は秋の空よりもはらりはらりと移り変わっていく。


 つまり、六条がぐずぐずとしている間に、祐太郎に別の恋愛話が舞い込んでこないとも限らないということだ。


 そもそも、祐太郎はイケメンのサッカー部員である。


 もう、この情報だけでモテるとわかるだろう。男は顔とステータスだという、シビアな現実を女子高校生はオブラートに包まず突きつけてくる。


 まったく忌々いまいましい。


 まぁ、僕の不満は置いておくとして、つまるところ、祐太郎はモテる。そうすると、六条だけでなく、他の女も当然彼に惚れるし、彼に告ろうとする。


 さて、祐太郎も健全な高校生男子である。


 ともすれば、六条ほど美人な女子でなくても、発情した女子が寄ってくれば、祐太郎は性的衝動を抑えきれずに、付き合うことになるかもしれない。付き合う付き合わないが性的関係だけを指すという乏しい思考回路に基づいていて、悲しいこと甚だしいのだけれども、男子高校生の脳みそは下半身についているので仕方がないことだ。男子高校生が言うのだから間違いない。いや、僕は違うけど。


 祐太郎の見るエロサイトの好みからかんがみるに、彼は胸のでかい大人っぽい女が好きだ。そんな女子から、告られれば簡単になびくであろう。


 どうして、僕が祐太郎の見ているエロサイトを知っているのかは、容易にお察しいただけると思うのでここでは割愛かつあいする。


 さて、前置きが長くなったが5月のことである。


 僕は、とある噂を耳にした。


 クラスの女子が、祐太郎に告白をしようと画策かくさくしているとのことである。


 立花律子たちばなりつこ


 美人ではないが、美人になる方法を熟知している女子であり、いわゆる努力型といえる。


 その努力のすえに、スクールカーストの上位にしっかりと食い込んでいるのだから恐れ入る。同じくスクールカースト上位の祐太郎と付き合うには、なかなかいいポジションの女である。


 何より胸がでかい。


 データだけで見れば、祐太郎の好みのタイプ。もしも、僕がただの友人であったならば、このマッチングを後押ししてやりたいところだ。


 しかし、残念ながら、僕は六条のサポーター。


 彼女の悲しむようなカップル成立には、断固として反対させてもらう。


 何より、この縁談。


 僕には、どうしても妨害しなければならない理由があった。


 それは、六条がスタンガンを購入したからだ。


 ……。


 つまり、そういうことだ。


 僕は前に、彼女の望む通りの結果を出さなくてはならない。それは簡単にいえば、彼女の恋敵に平穏な形で退場していただくということだ。


 難しいミッションであるが、僕はやり遂げてみせよう。


 なぜなら、僕は六条飾を愛しているから。

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