第40話 僕はハンカチをもらったから
『ハンカチを
どうして
詳しくは聞けなかった。だけど、その言葉からは不思議と情景が浮かんで見えた。
「ハンカチなんて持ち歩くキャラかよ」
僕は
人を好きになるきっかけなんてものは
だからって、ストーカーしていいわけじゃないけれど。
僕は、電柱に肩を
乃木外の
帰り道、周囲の人の視線を受けて、僕は自分の
同時に疲労で体がずっしりと重くなった。運動量としてはそれほどでもなかったはずなのだけれど、緊張度が
「もっと、楽な方法もあったかもね」
薄れる意識の中で反省会が始まる。そもそも乃木外にあそこまで詳しく指示を与える必要はなかったかもしれない。ただ脅すだけでも効果はあった。
けれども、再犯率を下げたかった。ただ脅すだけだったならば、乃木外が次にやることを考えなくてはならない。彼が考えたら
それならば、彼に考える余地を与えない。次に彼のやることをすべて指定してやるのがベストだと考えた。
それにしても
あの一瞬、乃木外が信じる
「それでも戻ってきたら、言った通りにするだけだ」
僕は
「
もう眠ってしまおうかと思った、そのとき、声がかかった。さすがに目立ったか。こんな時間に散歩する人などいないだろうから、警察だろうか。補導されると面倒だな。
だけど、その声には聞き覚えがあった。というより、毎日聞いている。けれども、自分に向けて発せられたことがなかったのでにわかには信じられなかったのだ。
顔をあげる。すると、そこには女神、いや、六条飾がいた。
「ひどいケガだけど、救急車呼ぶ?」
「い、いえ、大丈夫です」
焦って、どもりつつも僕は返答する。そうだ、一人いた。こんな深夜に
「そう。なら、いいけど。こんなところで寝ていてはだめよ」
「あ、はい。ちょっと、休んでいただけ、なんで。もう、帰ります」
僕は残りの力を振り絞って立ち上がった。六条飾に僕なんかの心配をさせるわけにはいかない。
僕ができるかぎり虚勢を張った笑みを浮かべると、六条飾は首をかくんと傾げてから、すっと手を僕の顔に寄せた。
「せめて血くらいは
手元にはハンカチ。六条飾は、僕の頬の血を乱暴に
「おさえておいた方がいいわよ」
「あの、でも、これ」
「血がついちゃったからもういらない。あげるね」
そう言って、六条飾は
祐太郎への愛にすべてを
そこが、途方もなく素敵なのだ。
だから、この疲労感も、苦労も、痛みも、罪悪感も、彼女のためなのだと思えば、すべてが
僕はもらったハンカチを鼻に押し当てて、思いっきり匂いを
乃木外、おまえはハンカチを拾ってもらったかもしれないが、僕はハンカチをもらったぞ。
六条飾の香りを嗅ぎながら、僕は心の中で、僕たちの世界から退場したストーカー変態くそ野郎に対して、そんなしょうもないマウントをとった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます