第30話 六条飾の恋敵は失踪した
その後の
結果からいえば、立花律子は僕の忠告を守り、祐太郎との関わりの一切を
それまでの
立花は、同時に僕とも関わらなくなった。もともと僕との関わりは祐太郎がらみなので、彼との恋愛がうまくいかなくなったならば、僕と話す機会がなくなるのも自然なこと。
ただ、生き埋め事件のことがある。
あのとき、立花はあきらかに僕のことを認識していた。いや、確証はなかっただろう。彼女に与えた情報は背格好と声。それだけでは人を同定できない。ただ、類推はできる。さすれば気になるだろう。
しかし、立花は、そのことについて僕に尋ねてくることはなかった。
まるで記憶を失ったかのように、立花は自然と学校生活を送っている。それが逆に不自然に映るのは僕が一連の出来事を知っているからだろうが。
異常。
そう思えた。
だが、よくよく考えてみると、普通の対応なのかもしれない。気を失わされ、山に生き埋めにされそうになり、顔の見えない男に脅された女の子。その恐怖たるやすさまじいものだっただろう。
物語の中の英雄であれば、その恐怖に立ち向かっただろう。しかし、現実の女の子にはできやしない。では、どうするか。簡単なこと。
なかったことにする。
恐怖と、恐怖を与える者から徹底的に目を
あぁ、そうだ。
僕は感覚がおかしくなっていた。埋められたら埋め返すようなそんな思考は普通ではない。そういう人物を
おかしいのは、
当の六条飾の方はおとなしいものである。祐太郎に近づく虫がいなくなり、どこかご機嫌にも見える。
ん? あぁ、それはおかしいと思った者もいるかもしれない。なぜなら、埋めたはずの立花律子は生きているのだから。だが、その疑問を抱くということは、まだまだ六条飾という女をわかっていない。
六条飾は、立花律子という女を認識していたのではない。祐太郎に近づく恋敵に対して怒り狂っていたのだ。
あの日、六条飾は、恋敵をトランクケースに詰めて山に埋めた。次の日から、祐太郎に近づくメス豚が消えた。それで一件落着。立花律子という女が生きていようがいまいが、そんなことはどうでもいいことなのである。
これこそ、異常。
だけど、僕にとっては、これが正常。
僕の好きな人は、好きな人に告りそうな女がいたら山に埋めちゃうくらい行動力があって、嫉妬深くて、それ以外が見えなくなるくらい好きに真剣な女の子。
それでいい。
それがいい。
そうじゃなきゃだめだ。
それでこそ、僕の大好きな六条飾である。
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