第43話 何の変哲もない遠足 その2
道の駅で食材を買い込んで再び揺られること30分。バスはようやく目的地へとたどり着いた。
山の中。森林と調和していますと言い訳するみたいなデザインの巨大なコテージと、できることはやりましたと諦めの声が漏れるコンクリートの駐車場。
まだ先に道が続いており、車をしばらく走らせるとキャンプ場がある。これから夏休みになれば子連れ客でにぎわうことだろう。
僕たちが使用するのは、コテージからしばらく歩いたところにある調理場。今日はこれからすぐに昼ご飯を用意して、それから自然公園を散策する。
「文明の否定だよ、こんなの」
僕はくそ重い
「火を起こすのがたいへんだから、ガスコンロが生まれて電気ヒーターが生まれたんだ。それなのに、どうしてわざわざ退化して薪で火を起こす必要があるんだか。先人達の努力をあざ笑う行為だよ。理解しがたいね」
「……」
「実際さ、キャンプで作る料理なんてさほどおいしくないじゃないか。
「……何で話しかけてくるの?」
この暑さと、重労働でまいってしまいそうになる心と雰囲気をなんとか
「それはどういう意味かな? 同じ班の同級生と作業中に無駄話をするのは普通のことだと思うけれど」
「そうじゃなくて!」
「カリカリしないでよ。この暑さだ。イラつくのはわかるけれど、他人にぶつけるのはよくないよ」
「違う! 私は! ……誰にも話していないし、普通にしているでしょ? あなたの言ったことを守っているのに」
「僕の言ったこと? 何のこと?」
「え? あ、いや、違うくて」
「そもそも普通とは思えないね。君はもっとコミュ力が高いはずだ。僕のつまらない話だって、君ならかろやかに打ち返せる。そういう意味ではちょっとおかしいね」
「違っ! ごめっ! 私は、そのぉ」
「熱中症の可能性があるね。少し休んだ方がいいかもしれない。薪、持とうか?」
「……、いい。自分で持つ」
祐太郎に恋をしたために、六条飾に生き埋めにされた
そのことを忘れたように立花は自然に学校生活を送っていた。まことに賢明。僕はそれを尊重して合わせてあげていた。だけど、こうして同じ班になってしまっては彼女も平常心を
立花は、前を行き、それから一つ深く息を吐いて、
「いかにも陰キャの考え方で気持ち悪い。レクリエーションに意味なんてないでしょ。みんなでやって親交を深めるのが目的なんだから」
「大事なのは結果じゃなくて過程だと」
「そういう小難しい言い回しが余計に気持ち悪い。みんなが純粋に楽しもうとしているんだから、あなたもそうすればいいじゃない。何でそれが普通にできないの?」
「まったくもってその通りだね。君が正しいよ」
精一杯に平常を
普通。
慣れ親しんだ言葉だ。慣れ親しんだ言葉だった。僕という人間を表す言葉だったし、この言葉の中から出ることを出ることなどなかった。そういう人間だった。
いつからだろう。普通という言葉が、こんなにもしらじらしく感じられるようになったのは。いつの間にか、ずいぶんと遠くに来てしまったような気がする。
後悔はない。
だって、普通の二文字の中から飛び出なければ、彼女に出会えなかったのだから。
さて、立花律子の正しさを確認したところで、僕は話を進める。僕がただ単に彼女に嫌がらせするためだけに話しかけたわけがない。僕はそんな無駄なことは嫌いだ。
立花律子には、今回も今回で負担をかけてたいへん申し訳ないのだけれども、六条飾のために働いてもらう。いや、大したことではない。見方によってはプレゼントにもなるだろう。僕からのプレゼントなんてどんなものでもあっても受け取りたくないだろうけれど、今の立花に断ることなどできやしない。
僕は、なるべく、できるかぎり、普通に話題を振った。
「立花さん、実は午後の散策で行ってほしいとことがあるんだ」
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