第24話 六条飾の恋敵 その5

 忍びない。


 目黒先輩といえば、祐太郎に恋心を抱かれたせいで、六条飾にバットを持って追い回され、僕の用意した男と付き合い、好条件の祐太郎を諦めざるをえなかった、ちょっとばかりかわいそうな女子である。


 その目黒先輩がやっとつかんだ幸せを壊さなくてはならないなんて、いくら僕でも気が引ける。


 いや、どうだろう。


 僕の用意した男子とはクリスマスの後に2ヵ月ほどで別れているし、その後、他の男子2人と交際している。


 この半年で4人の男子と付き合って別れてを繰り返している、いわゆるビッチ。そんな尻軽女しりがるおんなに何を気遣きづかう必要があるだろうか。


 少しサイクルが早まるだけ、むしろ、回転率をあげてさしあげるのだから感謝されるのでは? 商売繁盛、いや、恋愛繁盛である。いや、意味わからんけど。


 いやいや、どんなビッチ先輩であっても、やはりむりやり別れさせるのだから、かわいそうと感じるのが正しいだろう。


 まぁ、やるんだけど。


 ほんの少しだけ、抵抗はあったのだけれども、昨晩、部屋での六条の独り言を盗聴していて、決心せざるを得なかった。



『あ、スタンガン届いたんだ』


『これで、あのゴミ女をヤれるわね』


『前はバットですり潰そうとしたけど失敗しちゃったからな。そもそもバットで殴ったら血で汚れちゃうし』


『ゴミはゴミ箱へ。基本だよね』


『スタンガンは用意したから、後はガムテープと人が入る大きなスーツケース。それからスコップだね』


『深い穴を掘らないと。浅いと野犬に掘り起こされちゃうらしいから』


『うふふ、忙しくなるなぁ。でも、祐太郎くんのためだもの。がんばらないと』


『仕方ないよね。あのゴミ女がわるいんだもの。クソみたいな顔を祐太郎くんに見せて、無駄にでかい乳袋を祐太郎くんに押し付けて、汚い手で祐太郎くんに触って、本当に、どうしようもないんだから』


『ゴミ掃除されても仕方ないよね。あはははははははははははははははははははははははははははははははははははは!』



 ……。


 もう何が起こるかわかるよね?


 何の事件が起こってしまうかわかるよね!?


 僕が、立花の処理に手こずっていると、おそらくされる。


 この世から。


 永遠に。


 まぁ、僕の画策によって、立花は祐太郎という優良物件を逃して、少し不幸になるかもしれない。ただ、人生を終えるよりはいいのではないかと思う。


 目黒先輩も湯川先輩と別れることとなって、少し不幸になるかもしれない。しかしながら、後輩が一人命を落とすかどうかの瀬戸際にいると聞けば、納得していただけるに違いない。


 僕は、自らの良心にありったけの言い訳を並べてから、むわっとする空気の立ち込める草むらの中で、


 ときは夕暮れ。


 フラッシュを焚かず、相手に気づかれないように写真を撮る。少し暗くなり始めたため、しっかりとカメラに入る光の量を調整するのが重要だ。


 レンズに映るのは、二人の男女。


 一人は、くだんの湯川先輩。背が高いわりにすらりとしていて、確かに陸上部っぽい肉体をしている。この暗闇でも立ち振る舞いだけでイケメンとわかるくらいに、いい男である。


 その湯川先輩と絡んでいるのは、目黒先輩、ではない。別の女である。


 そう、なのである。


 どこの女かは知っているが特筆することもないだろう。彼女がどこの誰かなんて関係ない。問題なのは、湯川先輩に蛇のように絡みつき、タコの吸盤のように口に吸いついている女がということだ。


 校舎裏の人気のない石段。夕暮れ時で、周りに誰もいないからって、なんてきもわっている。


 というかバカなのか。


 まぁ、僕としては、湯川先輩と目黒先輩を破局させる素材を容易に手に入れられて、いいのだけれども。


 僕はカメラのディスプレイを見て、湯川先輩のあられもない姿を確認した。


 これならば、目黒先輩もちゃんと幻滅げんめつするだろう。


 僕は、カメラのデータをサーバにあげて、それからスマホで目黒先輩のアドレスに送り付ける。


 もちろん、僕が送り先であることはバレないようにする。これで計画の第一段階が終了。


 そこそこ順調。


 しかし、もたもたしていられない。六条が犯罪者になる前に、僕はできることをなさなければ。


 はぁ、人を愛するというのも大変だ。

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