第15話 僕の六条飾日誌 その4

 さて、おおよその授業について、六条は問題ない優等生である。ただ、一点の悪癖あくへきのぞけば。


 それは、移動教室での行動である。


 先に紹介したのだけれど、芸術の選択授業で生徒が特別教室へと向かい、教室が無人になったとき、六条は無人の教室に忍び込もうとする。


 方法は窓の金具に紐を絡めて、外側から開けるというもの。ただ、ここで疑問に感じた方もいただろう。


 そう、金具をひっかけるタイプの鍵であっても、紐だけで簡単に鍵は開いたりはしないのだ。


 いくら古いとはいえ、学校のセキュリティはそうゆるくはない。特に素人の六条の仕掛け程度では、鍵を外から開けることはできない。


 では、なぜ、六条はなんなく教室に入り込めたのか。


 それは、もちろん、僕が細工を仕掛け直しているからだ。


 グリスをって金具が外れやすくし、紐を縛り直して、ちゃんと外れるように確認する。


 移動教室で人がいなくなり、六条がやってくる前に、僕は仕掛けの直しを済ます。


 この補正によって、六条は難なく教室に入り込める。


 こうして、無人の教室に入り込んでから、六条の悪癖が発動する。


 盗み癖。


 祐太郎の練習着や、所有物を盗んでしまうのである。日付をまたいでちゃんと返してはいるが、練習着がなくなれば、さすがに祐太郎も気づく。


 まぁ、たまにであれば練習着を家に忘れたんんだなとか、そんなかんじで済むだろうが、六条は頻繁に練習着を盗む。


 さすがに少し自重しろ。


 と言いたいところだが、そんなことを僕が言えるわけもなく、僕は六条の盗みを黙認する。代わりに僕ができるのは彼女のしりぬぐいである。六条が教室を去った後に僕はこっそりと教室に忍び込む。


 そして、練習着を補充する。


 そう、補充するのだ。


 僕は、祐太郎の練習着のスペアを用意していた。そもそも彼が練習着を買うときに同行していたので、何を持っているのかは知っている。


 あとは、彼の家の洗剤の銘柄を調べて洗えば、匂いでバレることもない。


 先にも述べたが、祐太郎は決して神経質ではないので、ここまでやれば気づかない。そもそも自分の練習着が、別のものと入れ替わっているなんて発想が出てこないと思うが。


 後に、六条が練習着を返しに来た時は、ちゃんと補充した練習着がダブらないように管理する。この辺りは、慎重にやらなければ矛盾が発生する。おそらくであるが、祐太郎の母以上に、僕は祐太郎の練習着事情を把握しているだろう。


 別に自慢することじゃないけれど。

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