第16話 僕の六条飾日誌 その5

 放課後になると、サッカー部での祐太郎の練習を見るために、六条は社会科準備室に向かう。


 ここで、かんのいい者は既に気づいているかもしれないが、僕の仕事は、まず、六条が訪れる前に、社会科準備室の鍵を開けることだ。


 繰り返しになるが、いくら管理のゆるい学校とはいえ、そう都合よく社会科準備室の鍵は開いていない。


 なぜ、六条が、サッカー部の練習を見守るのにちょうどいい特別教室に忍び込めるかといえば、僕がそこに誘導し、そしてその社会科準備室の鍵を開けているからだ。


 鍵は閉まっているが、鍵自体は古い形式だ。


 仕組みさえ知っていれば、工具を使ってあけることなど容易たやすい。


 僕は、このために、ネットで同じタイプの鍵を探して購入し、そして、分解し、開ける練習をした。


 今では、さすがに針金一本で、とまではいかないが、専用工具を使用すれば、10秒で開けられる。


 社会科準備室は、物置として使用されていて、最初は人がいられるようなところではなかった。だが、位置的に、おそらくここを使用することになるだろうと思い、僕が徹底的に掃除、そして、整理整頓したわけだ。


 案の定、六条は社会科準備室に辿たどり着き、三脚を置いて、望遠レンズでサッカー部の練習風景を楽しんでながめている。


 ただ、一つ、抜けていたこととしては、社会科準備室が暑かったこと。


 季節にも依るのだけれども、日の高い季節になってくると社会科準備室はかなり厚くなる。確かに日当たりがいいわりに、通気性がわるく、熱のこもりやすい造りになっているけれど、これはなかなか耐えられるものではない。


 これは予想していなかった。


 だからといって、扇風機を置くわけにもいかない。そこまで準備したら、さすがに六条も何かしらの意図を感じることだろう。


 こればっかりは、六条自身に対処してもらうしかない。手持ち扇風機などもあるし。今度、クラスで手持ち扇風機が流行るように画策しようか。


 僕は、で六条の姿を眺めながら、そんなことを考えていた。


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