第22話 六条飾の恋敵 その3

 僕は悩んでいた。


 悩む理由は一つ、立花律子の案件をどうするか、だ。


 来週末のサッカーの練習試合までに、何かしらの対策を講じて、立花の告白を失敗させなくてはならない。


 そのために、僕はいろいろと考えているのだけれども、問題はそれだけでは済まなかった。


 立花律子の立ち振る舞いである。


 立花は、来週末までおとなしくしているのかと思いきや、そうではなかった。もともと肉食系女子であり、告白してからスタートだと言い切った女子である。


 好きになった男子に、何のアプローチもなしに待っているなんてできないようだ。


 

「あ、祐太郎くん。そのソシャゲしているんだ?」


「おう、立花も知っているのか?」


「うん、最近始めたんだ。でも、難しくて」


「どこまで進んだんだ? 教えてやるよ」


「え! 本当! うれしい!」



 ……。


 何だ、この露骨なアプローチは?


 発情した猫でも、もう少しおしとやかにアプローチをかけるぞ? これでは、性欲をまき散らす女の形をした妖怪か何かだ。


 もう、すべての言葉を『抱いてください』に変換してもいいのではないかとすら思える。


 まさか、こんな変態に好かれるとは。


 モテ男も困ったものである。ひがみではなく、純粋に。


 いや、確かに発情娘にも困ったものなのだけれども、いちばん困るのは、この発情娘のアプローチが、祐太郎のストーカーに見られていることである。


 六条飾りくじょうかざり


 六条は、クラスではいつもにこにこと笑みを浮かべて、友人と談笑を交わしている。しかしながら、今、六条の顔の笑みはない。


 というか、表情がない。


 呪いの人形でも、もう少し表情があるのではないだろうか。怒りとか憎しみとか、そういった感情を押し殺すことだけに神経を集中させているがゆえに、表情が死んでいる。


 小動物が見れば、ぽっくりってしまいそうな無表情を張りつけた六条は、じっと立花をにらみつけていた。


 やばいな。


 あの目を、僕は見たことがある。


 目黒先輩と祐太郎が仲良くしていたときに、同じ視線を目黒先輩に向けていた。


 当時、目黒先輩に向けて祐太郎は、わかりやすいアプローチをかけていた。目黒先輩もまんざらではなかったように見えた。


 その様子を見ていた六条は、静かに表情を失っていき、ある夜、覆面ふくめんかぶり、金属バットを持って目黒先輩の前に現れた。


 

『殺してやる!』



 このとき、僕は初めて本気の殺意というものを目の当たりにした。


 いろいろあって、なんとか事なきを得たが、もしも手違いがあれば、今頃、六条はへいの中にいたことだろう。


 いや、少年院かな。


 あのときのような、血なまぐさい展開は避けたいところである。


 だから、立花の告白をどうにかして阻止そししたい、もしくは、不成立としたいと思ったのだ。


 だというのに、この立花の軽率けいそつな、というか、軽薄けいはくな行動に僕は苛立いらだっていた。


 こんの発情娘め。


 そんなにエロエロしたいんだったら、家で一人でやっていればいいのだ。ご所望とあらば、女用のAVを10本ほど送ってやろう。


 それで解決するのならば、楽な話なのだが。


 僕は、頬杖ほおづえをついて、無表情でもかわいい六条の横顔を眺めながら、今後の対策を考えていた。


 さて、どうしたものかな。

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