第21話 六条飾の恋敵 その2
「祐太郎くんって、かっこいいじゃない。背が高くて、目が大きくて、髪型もこだわっていて。ちょっとナル入っていて、由香なんかは好みじゃないって言っていたけど、私は自信がなくてなよなよしているよりもいいと思うのよね。それに、サッカー部のエースで、ちゃんと中身もあるんだから、すごいでしょ」
「そうだね、すごいね」
最初、話を聞いてやると言ったとき、立花は初め
そりゃそうだ。
僕は立花とほぼ初絡みだし、そんな恋愛相談に乗るようなタイプではない。スクールカースト的にも下の方だし。
そんな僕がでしゃばって、立花の恋物語に割り込もうというのだから、
ただ、立花のキャスティングは意外と柔軟なようで、僕というモブの登場をすんなりと許してくれた。
モブというのが重要だ。
立花のような主役級の奴らは、モブに心を開く傾向にある。モブからどう思われてもいい。仮に嫌われても、モブになら別にいい。そういった油断につけこめれば、いろいろな情報を得られる。
そう思って、立花の話を聞き始めたのだが。
……早く終わらないかな。
始まったのは、ノロケ話。いや、別にノロケているわけではない。付き合っているわけではないし。立花は相談と言いつつ、祐太郎のいいところをだらだらと話すのだった。
まぁ、恋は盲目と言いますし、少しくらいならば付き合ってあげてもいいですけど。
一つ言わせていただくならば。
僕の方が百倍詳しいから!
いや、別に祐太郎に興味があるわけじゃない。
六条の好きな人、ストーキング相手である祐太郎のことを調べるのは、六条を愛している僕にとって義務なのだ。
祐太郎が、胸のでかい女が好きなことも、歯並びのわるい女が嫌いなことも、甘口カレーが好きなことも、納豆が食べられないことも、コーヒーには角砂糖4個入れないと飲めないことも、カラオケ好きだが音痴なことも、エロイラストレータのぽるぽと。のイラストをこっそり集めていることも、右足首の怪我がまだ完治していないことも、僕は知っている。
何なら、祐太郎の母親よりも、祐太郎に詳しい自信がある。
祐太朗のことが好きだというのならば、そんな薄っぺらい情報ではなく、このくらいは調べてから
「でさ、祐太郎くんは、私のこと好きになってくれると思う? 自分で言うのもなんだけど、けっこうかわいい方だと思うのよね。ほら、メイクも目黒先輩っぽく変えているし」
そんなことしていたのか。
僕は、そこまでメイクに詳しい方ではないけれど、確かに雰囲気が目黒先輩に似ている気もする。髪も少し巻いているし、若干明るくしている。
それって校則違反なんじゃないの? と思ったが、まぁ、きっと大丈夫なのだろう。
「うーん。いいんじゃないかな。祐太郎は君みたいに下品なくらい派手で、多少ビッチっぽい女子の方が好きみたいだから」
「はぁ?」
「ん? いや、つまり、おとなしめな美人よりも、明るく元気でかわいい系が好きで、どちらかといえばリードしてくれる女の子に
「何だろう。ただ言い換えているだけのような気がするけど、まぁ、いいわ」
立花は、よし、と立ち上がる。
「それじゃ、明日にでも告白するわ」
性急だな、おい。
「私の場合、告白してからがスタートなわけ。好きって相手に知らせてから、まぁ、断られても、次第に好きになってもらえればいいかなって」
なるほど。そういう考え方もあるのか。
少し極端な気もするが、髪の毛一本分くらいは、六条にも見習ってほしいものだ。
ただ、僕は口を挟んだ。
「それはやめた方がいいと思うな」
「何でよ」
僕が否定したことに、立花は不服そうな顔を返した。
「祐太郎は、タイミングを重視するからだよ」
「タイミング?」
「そう。学園祭とか、体育祭とか、バレンタインとか、ハロウィンとか、そういうイベントで盛り上がったところで告白ってのがあいつの理想なわけ。それ以外だとテンションがあがらないんだろうね」
「なるほど」
「だから、何かしらのイベントに合わせて告白した方が成功率は高いと思うけど」
「ふむ、
立花が納得してくれてよかった。
話したことは半分本当。祐太郎はイベント好きなので、そのタイミングで告白すれば、多少好みから外れていても成功する確率は高い。
だが、実際のところ、立花は祐太郎の好みからそう外れていない。
その無駄にでかい乳を祐太郎の目の前で揺らしてやれば、簡単に飛びついてくるのではないかと思う。
しかし、それでは困るのだ。
祐太郎と立花が付き合ってもらっては困る。この二人は結ばれないようにしなければ。
そのために、作戦を
イベントなんてものは、滅多にないからイベントというのだ。いや、意味わからんけど、すぐにはやって来ない。
ということで、すぐに告白するという流れは
立花は、
「確か、来週末にサッカーの練習試合があるって言ってたわね。その試合の後とかどうかしら?」
……どうやら、そんなに時間はなさそうだ。
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