第51話 これを愛だと証明しよう
結局、六条飾の準強姦は未遂に終わった。
あの後、猫は僕が一人で運ぶこととなり、六条飾とは別れた。僕の方はできればどこかで体操着に着替えたかったし、六条飾は祐太郎のもとに戻りたかった。
六条飾が祐太郎と合流したころにはずいぶんと時間が経っていたし、告白を終えて戻ってきた堀直樹とも合流したから、残念ながら睡眠薬入りのお茶を飲ませる機会はなかった。
ただの遠足。だったはずなのに、ずいぶんとたいへんだった。僕としてもいろいろと考えさせられた。これまでのこと、これからのこと、自分の立ち位置、六条飾との距離感、愛とは何か、恋とは何か。
「おはよう」
何を悩んでいようとも日は暮れて、夜は明ける。
そして、六条飾はベッドの上で目を覚ます。いつものように。どこかで誰かが恋の病に侵されて、悩み苦しんでいたとしても、そんなことを知る由もなく、幸せそうに彼女は世界に挨拶をする。
僕は、盗聴器から発せられる六条飾の声を聴く。
いつものように。
六条飾との距離感について現実をつきつけられた。だからといって、僕の六条飾への気持ちを変えるには至らない。いや、変えた方がいいのかもしれないけれど、すぐには変えられないというのが実際のところ。だとしたら、とりあえず今まで通り過ごすというのが現実的。
つまりは保留。
愛という病は、そう簡単には治らない。成就しないとわかっていても、誰も幸せにならないと知っていても、愛することはやめられない。
いつか。
いつか恋の病が治るのだとするのならば、それはそれで悲しいことのようにも思う。六条飾への愛情を失ってしまうということだから。
そのいつかが来るまで、僕は六条飾のために生きていこうと思う。六条飾の幸せのために、六条飾の好きなことができるように、六条飾の恋が実るように。そして、六条飾のストーカー行為が露見しないように。
なぜなら、僕は六条飾を愛しているから。
この愛が間違っているのだというのならば、社会が僕のことを否定するだろう。だとしたら、僕は僕の行動によってこの愛が本物だと証明しよう。
僕は、六条飾のハンカチの匂いをすーっと吸ってから、誰に向けられたものでもない彼女の朝の挨拶に応える。
「おはよう、六条飾」
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