第6話 犬耳獣人のメルル

一見すると、ただのセミロングの白髪の美少女って感じだけど。


 カエラも見た時も思ったが……こうして見ると実感する。


 前の世界に似ていようとも、ここが異世界なのだと。


 彼女の頭からは白い耳が生え、お尻からは可愛らしく丸まった尻尾が出ている。


 身長も小さく体型も幼く見え、そして震えている……まるで、子犬のようだ。


「みなさん、今日より教室に留学生が仲間入りいたします。獣人国家ガイアからやってきた、メルルという方です。どうか、仲良くしてあげてください」


「メ、メルルです! よろしくお願いします!」


「メルルさん」


「ひゃい!」


「そんなに緊張しないで平気ですよ。確かに、人族の中で暮らすのは大変だと思いますが、そのうち慣れていくでしょう」


「が、頑張りましゅ……!」


 その言葉とは裏腹に噛んでるし、全身をプルプルさせている。

 どう考えても、すぐに慣れそうには見えない。


「クスクス……なにあれ」


「獣人ってみんなああなの?」


「弱っちそうだな」


 そんな声が、あちこちから聞こえてくる。

 どの世界でも、こういうのは無くならないらしい。


「静粛に! ……ふむ、困りましたね。交換留学生である獣人の方に何かあると問題に……」


「す、すみません……」


「いえいえ、メルルさんが謝ることではないですよ。むしろ、後で説教が必要みたいですね?」


 その言葉に、何人かの生徒が視線を逸らす。

 本当に、この方は良い先生だな。

 記憶を取り戻す前の俺にも、親身に相談に乗ってくれたし。


「さて、そうなると……アレク君」


「……はい? 何でしょうか?」


「君は先ほど、真面目になると言っていました。ならば、それを証明してもらいましょう。貴方を、メルルさんの世話係に任命いたします。国家の関係を悪化させないためにも頑張ってください」


「……えぇ〜嫌なんですけど」


 国家の関係に関することはしたくない。

 そんなことをすれば、後々面倒なことになりそうだし。

 成功しても失敗しても、俺には何も得はないし。


「ほほう? 先程の発言は嘘だったと?」


「ぐっ……いや、しかしですね……」


「おや? ここに単位の足りない生徒が一人……うむ、彼は卒業が出来るのでしょうか? これは大量の補習が必要に……」


「ァァァ! もう! 不肖アレク、喜んでやらせて頂きます!」


 俺の一年の時のサボり具合と成績はやばい。

 二年でなんとか取り返さないと、進級すら危うくなる。

 まあ……世話になった先生の頼みだし、面倒だけど引き受けるとするか。


「うむ、良い返事です。これで、私も安心できます。メルルさん、そういうわけですので」


「え、えっと……?」


「あのアレク君という方が、貴女の世話役を名乗り出てくれました。隣の席が空いているので、そちらに座ってください」


「わ、わかりました」


 まるでロボットのような動きで、教壇からこちらに向かってくる。

 そして、俺の目の前まで来て……。


「は、初めまして! 僕はメルルといいます! よろし——痛っ!?」


「へ、平気か?」


 いたそ……思い切り、机の角に頭をぶつけたな。

 おどおどした態度といい、ドジっ娘属性がありそうだ。

 しかも、ボクっ娘でもあると。


「へ、平気です……痛いよぉ〜」


「いや、そりゃ痛いでしょ。大丈夫? 保健室行くかい?」


「い、いえ! 身体だけは丈夫なので!」


 そういえば、獣人族は種族の中でも一番頑丈とは聞いたことあるな。


「そっか、なら良かった。一応、君の世話役になったアレクです。メルル、これからよろしくね」


「よ、よろしくお願いします! えへへ、優しそうな人で良かったです」


 ……何処を見たらそうなるのだろう?

 こちとら、さっき嫌だって言ったの聞いてなかったの?


「……とりあえず、席に着こうか」


「そ、そうですよね!」


 俺の隣に彼女が座り、ホームルームが再開する。

 その際に、また前の席にいるセレナと目が合う。

 その顔は、明らかに不機嫌そのものだった。


「……むぅ」


「いや、だから何ですかね?」


「ふんっ」


 ……はぁ、平穏な日々は難しそうです。




 ◇



 教室の前で、僕は深呼吸をします。


「うぅ……大丈夫かなぁ」


 祖国を離れ、人族の国にくるのは怖かった。

 あんまり、良い噂を聞かなかったから。

 獣人をニンゲンモドキって言ったり、昔は奴隷とかにしてた時代もあるらしい。


「で、でも、僕がやらないと……」


 こんな僕だけど、獣人族の王族として頑張らないと……ただの役立たずだけど。

 本当はお姉ちゃんがくるはずだったけど、お姉ちゃんは身体を壊してしまった。

 なのに無理していこうとするから、僕が代わりに行くって言った。


「優しい人いるかな?」


 すると、教室の中から僕の名前を呼ぶ声がする。

 意を決して中に入ると……人族の人達から視線を浴びる。

 こ、怖いよぉ……し、しっかりしないと。

 僕が恐怖で震えている中、どんどんと話が進んでいく。

 そして、結果的にアレク君という方のお世話になるみたい。

 ひとまず席に着いて、ホッとする。


「……ふぁ」


「……ふふ」


「あら、欠伸を見られてたか」


「ご、ごめんなさい」


「別に謝ることはないさ」


 そう言って微笑むアレク君は、とても自然体だった。


 彼には、僕を見下す視線が感じられない。


 この国に来てから、そういったことが多かったけど……。


 どうやら、優しい人に出会えたみたいです。






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