第43話 平和な……日々?

それから三日が過ぎ……特に変わりはなく生活ができている。


てっきり、何か難癖をつけられるかとも思っていたが……。


どうやら、あっちもそれほど馬鹿ってわけじゃないらしい。


俺がいくらグータラ公爵子息とはいえ、第二王子にして王位継承権を持つ。


それと正面から喧嘩することの意味はわかってるってことか。


……無論、あんまり好きじゃない手なんだけど。


「あの場合は仕方ないよなぁ」


「お兄様? どうしたのですか? 珍しく悩んでますが……明日のお天気は大丈夫でしょうか??」


「妹よ? 酷くない? 兄だって、悩みくらいはあるさ」


「クスクス……冗談ですの」


最近のマリアは、前よりも明るく元気になった。

メルルという友達が出来たことと、セレナが来るということを伝えたからだろう。

この笑顔が見れるなら、俺の苦労など安いものだ。

文句があるなら、どっからでもかかってこい……やっぱり、やめてくれると助かります!

出来るだけ、平穏な日々を過ごしたいものです。


「それより、父上はいつまでこっちにいるんですかね?」


「んっ? 儂は暫く帰らんぞ?」


「はい? ……どういうこと?」


「今は比較的妖魔も大人しいし、エルフ族とも揉めとらんしな。そもそも、いずれ死ぬ儂に頼りきりではいかん。何より、こっちでやることがあるからのう」


理由はわからないが、春の時期は妖魔は大人しいらしい。

夏から秋にかけて活発的になるとされている。

なので国境の守りの要である親父も、こうして休みを取ってるってことか。


「それはわかるけど、こっちですることってなんだ?」


「大したことじゃないわい。鈍りきった騎士団を鍛え直したり、国王の相手をしたりな。あとは……まあ、色々とあるんじゃ」


「へぇー、そうなんだ?」


「何を他人事みたいに言っとるんじゃ? その中には、お主の鍛錬も含まれているのだが?」


「げげっ!? いやぁ〜俺は遠慮しとくよ。ほら、親父も歳だから無理するとアレだし」


これはまずい。

親父がいるということは、俺の平穏が侵されるということだった。


「何を言っとる。まだまだ儂は現役だから心配するな」


「別に心配していってるんじゃないし! 俺は鍛錬が嫌だから言ってるんだよ!」


「何を!? この可愛い父上を心配せんか!」


「イテッ!? すぐに殴る父親の何が可愛いんだよ! というか、全然元気じゃねえか! 心配するだけ損だっ!」


「儂はそれでも息子に心配されたいのじゃ!」


「理不尽!!!!」


「ふふ、お二人共……お食事中ですわ」


「「はぃ……」」


マリアに冷たい目で見られ、俺と親父も大人しく座る。

くそっ、俺は何も悪いことをしてないのに。

朝は忙しいし、夕飯くらいはゆっくり食べたい。


「ですが、お父様もお身体だけにはお気をつけてくださいね?」


「うむ、わかっておる。だが、そうも言ってられん。民が危険を感じずに、健やかに過ごすのはいい。それを守ることが、我々貴族の役目だからだ。だが、平和ボケした貴族や騎士が多すぎる」


「それは仕方ないことですわ。この王都近くでは妖魔や野党もあんまりいませんし……人はその立場になってみたり、経験がないとわからないものかと」


「その通りじゃ。ゆえに、儂が奴らを死ぬ目に遭わせんといかん。いざという時に使えないのでは話にならんからのう」


ノブレスオブリージュ……貴族の義務か。

民の税金で生きてる以上、民の為に働くということ。

それが本来の貴族のあり方であり、国が定めているんだけど……。

果たして、何人の貴族がそう思っているかねぇ。


「アレクお兄様も気をつけてくださいね?」


「ん? なんのこと?」


「えっ? ……確か、二年生は校外学習があるとか……戦闘訓練を兼ねた」


「……そうだった」


前の世界でもあった、いわゆる親睦を深めるためのオリエンテーションの一環だ。

新しいクラスに馴染むためと、連帯感を生むために。

一緒に食事を作ったり遊んだり、前の世界と違うのは戦闘訓練をすることくらいか。


「……お父様、お兄様を扱くことを許可しますの」


「マリアさん?」


「流石に腑抜けすぎですわ。これだと、心配になりますの」


「ククク……マリアの許可があれば怖い物ものはないわい。アレクよ、覚悟するがいい。丁度良かった、お主を鍛え上げる必要があったからのう」


「嫌だァァァァ!?」


「問答無用! 夕飯を食べたら鍛錬を始めるぞ!」


「ヒィィィ!?」


その後、ゆっくりするはずだった俺は……寝る前にボロボロになる羽目に。


俺はただ、静かに過ごしたいだけなのに!


どうしてこうなったァァァ!?


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